2013年2月19日火曜日

asahi shohyo 書評

明日の友を数えれば [著]常盤新平

[文]西條博子  [掲載]2013年02月22日

表紙画像 著者:常盤新平  出版社:幻戯書房 価格:¥ 2,625

 先月、81歳で逝去した直木賞作家のエッセイ集。昔なつかしい喫茶店や場末を好む著者が、およそ10年にわたる、老いとつきあう、のどかだが忘れ難い日々を描いた。
  荒川沿いの団地に住んでいたころ、通う喫茶店があり、扉の下から桜の花びらがまぎれこんでいた。先のラブホテルの前の桜を風が散らしていたのだ。当時、都 心に借りていた仕事場の前にも桜並木があり、着物姿で見あげていた老女の営む喫茶店に出入りした。その彼女は看取る人もなく亡くなる。いつのまにか仕事場 のベランダには咲きほこった桜の枝が伸びてきており、その濃厚な匂いを嗅ぎつつ、著者は桜の美しさを体で覚えたように感じる。
 居酒屋で打ち解けた男性は、アラブの馬を2、3頭持っていたが、得た金は酒と女に消えたという。金はうなるほどあるという噂だったが、ふとした拍子に6回の結婚と離婚を聞かされた……。
 肩肘張らないなかの幸せ。「つつましい喫茶店がある街はいい街だ。街の暖かさ、街の誇りだと私は思ってきた」の一文に、温もりが生きている。

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明日の友を数えれば

著者:常盤新平/ 出版社:幻戯書房/ 価格:¥2,625/ 発売時期: 2012年11月

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