イスラエル建国は神の意思なのか ラブキン来日
[文]塩倉裕 [掲載]2013年02月12日
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イスラエルはユダヤ教の伝統に基づく国である——歴史学者でユダヤ教徒のヤコブ・M・ラブキン(67)は、そんな見方に異を唱えている。昨年の著 書『イスラエルとは何か』では同国を、近代の論理から生まれた「最新の植民地国家」だと記した。パレスチナでは今も紛争が続く。差別と暴力の歴史を根に 持った対立を前に、何ができるのか。来日を機に聞いた。
ラブキンは旧ソ連出身の敬虔(けいけん)なユダヤ教徒。40年前にカナダ・モントリオール大に移り、教授を務めている。なぜ移ったのか。
「自由がなかったから。読みたいものを読み、書きたいものを書くためには自由が必要だった」
イスラエル建国の原動力になったのはシオニズム運動だった。ラブキンは著書を通じて、シオニズムに対しては実はユダヤ教の内部からも強い批判の声があがっ ていたのだ、という史実を紹介してきた。たとえば、神が「聖地」に呼び戻してくれるまで今の土地で待機するという務めを放棄して人為によって聖地を奪取す ることは神との約束に反する、という主張があった。ユダヤ・アイデンティティーとは宗教的なものであって「民族」や「人種」に置き換えるべきではない、と の意見もあったという。
「国を持たぬままそれぞれの住む地域でユダヤ教の教えを守りながら生きていくというあり方に代えて、シオニストは西洋式の近代化の手法を用いて、ユダヤ『民族』とその国家を造り出した」
■カギ握る「脱・植民地化」
シオニズムへの支持が広がった背景には、ナチスなどによるユダヤ人迫害があった。反ユダヤ主義による差別と暴力の「被害者」なのだから、防衛のために「自分たちの場所と力」を持つべきだ。そんな思いが弾みになった。
「でも今、世界にはユダヤ人が自由に生きられる場所が実在します。共存可能な社会がある」
イスラエルでは今年1月に総選挙が行われた。ラブキンは、政策的な対立はあっても、ある同意は共有されていたと見る。
「占領地を縮小することはない、という同意です。方向性として実際に見えたのは『拡大』か『現状維持』だけ。シオニズム文化の勝利を表す選挙でした」
共存を拒まれてきた民の国であるはずのイスラエルが、パレスチナ住民との共存には向かわない。
「多くのイスラエル人は自国を『アラブの野蛮な地域に浮かぶ文明の橋頭堡(きょうとうほ)』と考えています。アジアの一角にあるのに、自らを西洋人だと思っている。暴力行使の根に、民族差別的な認識がある」
解決へのカギは「脱・植民地化」だとラブキンは見る。入植者たちがもはや「帰る場所」を持たない以上、パレスチナの地で共存する可能性を探るしかない、と。
「意見の違う他者と対話しながら歴史の見直し作業を進める。そういう機会を広げていきたい」
■「共存」探る義務がある
最後に、彼個人にとって「ユダヤ」とは何か、と尋ねてみた。
「神の意思に従って自分を改善し、可能であれば周囲や世界も改善していく義務のことです」
だがパレスチナ地域での争いは、「解決不能な負の連鎖」と語られるほどの難題でもある。
「ユダヤ教の教えには次のような言葉があります。お前には仕事を終わらせる義務はないが、それを放棄する権利もない」
◇
Yakov M. Rabkin 1945年、旧ソ連生まれ。73年からカナダのモントリオール大。専門は科学史、ユダヤ史など。著書『トーラーの名において』(平凡社)、『イスラエルとは何か』(平凡社新書)。
この記事に関する関連書籍
著者:ヤコヴ・M・ラブキン、菅野賢治/ 出版社:平凡社/ 価格:¥924/ 発売時期: 2012年06月
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トーラーの名において シオニズムに対するユダヤ教の抵抗の歴史
著者:ヤコヴ・M・ラブキン、菅野賢治/ 出版社:平凡社/ 価格:¥5,670/ 発売時期: 2010年04月
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