2013年2月15日金曜日

asahi shohyo 書評

勤勉で従順な日本人! 写真集「日本の100年」刊行

[掲載]2013年02月14日

東京・荒川の桜堤で花見を楽しむ人々 1911年11月号 WILLIAM W. CHAPIN 拡大画像を見る
東京・荒川の桜堤で花見を楽しむ人々 1911年11月号 WILLIAM W. CHAPIN

着物、洋服を着た日本女性 1938年1月号 MARY A. NOURSE 拡大画像を見る
着物、洋服を着た日本女性 1938年1月号 MARY A. NOURSE

高度成長の象徴、東京・銀座 1960年12月号 (C)JOHN LAUNOIS 拡大画像を見る
高度成長の象徴、東京・銀座 1960年12月号 (C)JOHN LAUNOIS

自家用車にも「おはらい」 1991年11月号 (C)KAREN KASMAUSKI 拡大画像を見る
自家用車にも「おはらい」 1991年11月号 (C)KAREN KASMAUSKI

富士山の夜間登山 2002年8月号(C)KAREN KASMAUSKI 拡大画像を見る
富士山の夜間登山 2002年8月号(C)KAREN KASMAUSKI

表紙画像 著者:ナショナルジオグラフィック  出版社:日経ナショナルジオグラフィック社 価格:¥ 3,990

 1888年創刊の米月刊誌「ナショナルジオグラフィック」に掲載された日本の記事と写真を1冊にまとめた写真集、『ナショナルジオグラフィックが見た 日本の100年』が、日経ナショナルジオグラフィック社から出版された。
  近代化し軍国化していく明治期から敗戦、戦後の高度成長とバブル、3・11の大震災と原発事故まで、本書が強調するのは、日本人の誠実さや勤勉、従順さや 忍耐力だ。執筆陣は記者だけでなく、お雇い外国人や学者、米国大統領や外交官らと多彩。日本人の美徳はこの100年で変わったのか。今後の生き方を探る上 でも参考になる。
■写真集に掲載された写真を見る

■日本人パワーの源泉を探る
  たとえば、日本人観。「桜見物」の着色写真が目を引く1911年11月号の記事では、日本人の「花をめでる心」を絶賛し、「日本人ほど幸せで、日々の暮ら しに満足している国民はいない」と言い切る。その理由として、日本人の「シンプルライフ」「美に対する素直な感動」「他人への思いやり」をあげている。
 また、日本の自然や地理に関心が高く、各地の山河や農村・漁村などを取材しながら、「日本人は季節感をとても大事にする」(14年7月号)、「自然環境が日本人の精神構造を形作っている」(21年7月号)などと記している。
 日本はこの間、日清・日露戦争に勝ち、国力も増して軍事大国化していく。そんな日本を警戒しつつも、関東大震災から復興した帝都の姿や、忍耐強く働く多くの女性を取材し、当時の日本人の活力の秘密に迫る記事や稀少な写真が興味を引く。
  だが、日米開戦後の1942年8月号では、日本人の強みを「人命軽視」と「良心の欠如」、最大の脅威は「国家への熱烈な忠誠心」として軍国主義を批判し、 「いつの日か日本の崩壊をもたらすだろう」と予告。44年4月号でも「日本独自の文化は深遠で美しいが、そこに根ざす精神性には残忍で盲従的な面もある」 と記した。
 こうして45年8月に日本は敗戦を迎えるが、しかし「昭和30年代」以降、またしても高度成長で奇跡の復活を果たす。東京・銀座の眩(まばゆ)さはその象徴であり、再び日本人のパワーの源泉や不可解さを探る記事が増える。
  1984年6月号の吉田松陰ら「維新の精神」を生んだ萩を訪ねた記事や、91年11月号の神主が自家用車に「おはらい」する写真、2002年8月号の富士 山のご来光を拝しに夜間長蛇の列をなす日本人の写真、03年12月号の「生き続けるサムライ精神」と題する記事には日本人理解への努力がにじむ。

■不可解な日本、再び輝くか
  他方、苦言も呈している。1960年12月号では安保闘争などに触れ、「日本は一筋縄では理解できない国」「米国の占領軍がもたらした民主主義がまだ日本 に十分根付いていないこともよくわかった」と書く。民主化のプロセスへの懸念については、46年6月号でも「従順な日本人の特性こそが、同時に日本の民主 化を複雑なものにする」と分析していた。
 また、バブル経済前後のひずみにも目を配り、90年4月号では、経済大国日本における女性の管理職は 「働く女性の1%」と指摘。また、沖縄の基地問題や北方領土問題など政治問題や巨大災害にも目を配る。なかでも3・11の大惨事は、1896年9月号で報 じられた三陸地方の大津波と重なる。記事には「犠牲者の多くは家の中に取り残された家族を助けようとして家に戻ったり、貴重品を取りに戻った人たち」とあ る。
 「19世紀末から20世紀前半にかけての歴史は、世界史の舞台に米国と日本が突如登場した歴史であった」。米国に詳しい政治学者の久保文明 東大教授は序文で、「永遠に米国人の心をとらえ続ける」のは経済ではなく、日本の「素朴、自然、伝統」だという。そしていつか、「一時衰退気味であったも のの、見事に復活した日本」の記事が掲載されることがあるのだろうか、とも記している。
 全320ページ。

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