2013年2月8日金曜日

asahi shohyo 書評

エンジェルフライト—国際霊柩送還士 [著]佐々涼子

[文]瀧井朝世(ライター)  [掲載]2013年02月03日

表紙画像 著者:佐々涼子  出版社:集英社 価格:¥ 1,575

■死との向き合い方を問う

 外国で亡くなった方の遺体や遺骨を祖国へ搬送する仕事がある。その国内初の専門会社、エアハース・インターナショナルの人々の奮闘を追った第10回開高健ノンフィクション賞受賞作。昨年11月の刊行以降、着実に読者を増やしている。
  「国際霊柩(れいきゅう)送還」は同社の登録商標。海外で亡くなった日本人、日本で亡くなった外国人の送還に必要な手続きを行い、防腐処理や化粧を施して 遺族の元に送り届ける。本書はなかなか表に出ないその職業の内実を教えると同時に、死との向き合い方を我々に問いかける。
 重いテーマだが「読後 感は悪くない」という声が多い。おそらく、豪傑で懐が深い社長の木村利惠さんの存在によるところが大きいだろう。著者が初めて取材を申し込んだ時は「あな たに遺族の気持ちがわかるんですか」とぴしゃりと拒絶。社員にも厳しいが遺体には繊細な気遣いと敬意を見せる。遺族に安易な慰めの言葉はかけず、むしろ 「悲しみ尽くす」手助けをする。そして「(遺族は)私の顔を見ると悲しかった時のことを思い出しちゃうじゃん。だから忘れてもらったほうがいいんだよ」。 悲しみに対する姿勢、悲嘆にくれる人への接し方について、気づかされる点が多い。
 読者の6割は女性、30代以上に広く読まれている。担当編集者 の長谷川浩さんは「震災以降死に対する考え方が変わってきているなか、『弔い』の意味を改めて考えるきっかけになっているようです」。以前から著者を担当 する集英社インターナショナルの田中伊織さんは「日本人特有の死生観を探る、ある種の日本人論になっている。と同時に人類共通の、家族を思う気持ちに訴え かける作品となっています」。実際、アジア圏の複数の出版社から翻訳に関する問い合わせがあるという。
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 集英社、1575円=4刷7万部
 






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