2011年10月11日火曜日

asahi shohyo 書評

イスラームから見た「世界史」 [著]タミム・アンサーリー

[評者]柄谷行人(評論家)  [掲載]2011年10月09日   [ジャンル]歴史 

■欧州・日本、中心史観を相対化

  日本人がもつ「世界史」の観念は、基本的にヨーロッパ中心である。むろん、日本人はそれだけでなく、東アジアから世界史を見る視点ももっている。しかし、 その間にある西アジアに関しては、無知も同然である。西アジアはある時期からイスラム圏であり、それはアラビアやアフリカからインド、インドネシアなどに 及ぶ。2001年9・11以来、このイスラム圏が突然、大きく浮上してきた。ところが、われわれにはまるで見当がつかない。その政治社会についても、宗教 についても、皮相的で紋切り型の知識しかない。しかし、それを補うためにたくさんの本を読んでも、いよいよ不鮮明になるばかりだ。
 本書は、イス ラム圏の内部でふつうに考えられている「世界史」を書いたものだ。これを読むと、この世界を外から観察するのではなく、その内部で生きてきたかのように感 じる。そして、イスラム圏の人々が他の世界をどう見てきたのか、あるいは、現代のグローバリゼーションをどう考えているのか、を身近に感じられるようにな る。読者はこれを読んで、このような史観(物語)に与(くみ)することにはならないだろう。しかし、いつのまにか、ヨーロッパ中心主義ないし日本中心的史 観から抜け出ているのを感じるはずである。
 私は本書から、これまで宗教学の本を読んでわからなかったイスラム教の諸派が、具体的にどういうもの なのかを学んだ。また、モンゴル帝国の崩壊というと、われわれは東アジアで、元のあとの明帝国を考えてしまうが、それは同時代の西アジアで、三大イスラム 帝国(オスマン、イラン、ムガール)の形成に帰結している。それらが、近代ヨーロッパの支配の下で変形され、現在のような多数の国民国家に分節されてきた のである。現在の状況を見るとき、本書に書かれたような「世界史」認識が不可欠である。
    ◇
 小沢千重子訳、紀伊国屋書店・3570円/Tamim Ansary アフガニスタン出身、米国在住の作家。

この記事に関する関連書籍

イスラームから見た「世界史」

イスラームから見た「世界史」 

著者:タミム・アンサリー、小沢千重子  出版社:紀伊國屋書店 価格:¥3,570

☆☆☆☆☆  ( 未評価 ) みんなのレビュー: 0 朝日の記事:1

ブックマする 8 ブックマ

0 件のコメント: