2011年10月18日火曜日

asahi shohyo 書評

モラルのある人は、そんなことはしない—科学の進歩と倫理のはざま [著]アクセル・カーン

[評者]辻篤子(本社論説委員)  [掲載]2011年10月16日   [ジャンル]科学・生物 社会 

表紙画像 著者:カーン・アクセル、林昌宏  出版社:トランスビュー 価格:¥ 2,625

■生命操作の技術をどう考える

 カズオ・イシグロ原作の映画「わたしを離さないで」の切ないシーンがよみがえった。クローン技術で臓器提供のためだけに生まれてきた少年少女の物語だ。
 この想定こそ荒唐無稽に思えても、きょうだいへの移植を目的にこどもをつくることを認めるかどうか、そんな議論は現実に起きている。
 生殖補助医療や臓器移植、遺伝子操作と、生命を操作する技術が急速に進む。私たちはどう考えればよいのか。
 フランスの著名な遺伝学者である著者が多くの具体例をもとに思索をめぐらす。その根底にあるのは「他者の尊重」という原則だ。
 表題は子ども心に刻み込まれた、教育者だった父の言葉「良い子はそんなことを言ってはいけない」に由来する。
 市民がそれぞれ考えるためには専門家による情報提供が欠かせない。その専門家が、自身が望む方向に世論を誘導しようとしたとき、民主主義は危機的状況に陥る。この指摘はずしりと重い。
    ◇
 林昌宏訳、トランスビュー・2625円



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