ストラディヴァリウスの真実と嘘　[著]中澤宗幸

[評者]土屋敦

[掲載]週刊朝日2011年7月22日号

　著者は世界的なヴァイオリンドクター。名器の修復や著名な演奏家の楽器の調整、売買や鑑定なども手がける。

　本書は、そんな著者だからこそ書けるエピソードが満載だ。ストラディヴァリウスは「雑音」やうねりが多く、名演奏家でもそう簡単にはいい音が出せない、難しい楽器だという。また演奏家の音を吸収する不思議な力があるそうだ（クライスラーの楽器をフランチェスカッティが弾いても、クライスラーが弾いているように聞こえる！）。またニスや使う木材、修復の技法など、修復家ならではの話も実に興味深い。

　後半は、自身の修業や演奏家との交流について筆を割く。またヴァイオリン売買の失敗譚や、裁判所の依頼で贋作鑑定したら３０年近く前に自分が作った楽器だったなどの話も面白い。

　ストラディヴァリウスによる演奏が聴けるＣＤ付き。聴きながら読めば、いっそう楽しめる。