2011年7月12日火曜日

asahi shohyo 書評

しあわせ節電 [著]鈴木孝夫

[評者]松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学)

[掲載]2011年7月10日

表紙画像著者:鈴木 孝夫  出版社:文藝春秋 価格:¥ 1,200


■嫌々でなく一種の趣味として

 世を挙げて「節電」の大合唱だが、そんななか、言語学者の出した節電の本である。タイトルも可愛らしくて、「おや」と思って手に取った。

 「戦前の暮らしを劇的に変化させないで今までやってきました」とあるが、道に落ちている釘や空き瓶は必ず拾い、ビスケットの缶 も叩(たた)いて延ばして再利用、と節約ぶりは徹底している。捨てられていた電化製品は修理して留学生にあげ、腕時計は昭和26年にもらった自動巻きをい まも使っている。新製品を開発して売ることを目指す資本主義経済とは相いれないだろうが、見えを張らず、古いモノを大切にし、嫌々ではなく一種の趣味とし て節約するのが「しあわせ節電」の秘訣(ひけつ)らしい。

 著者は原発に反対なだけでなく、化石燃料を使う火力発電にも反対している。無駄遣いを排除するライフスタイルの話はやがて文明論、国家論にまで発展していく。そのすべてに同意できるわけではないが、地球環境に対する危機感は共有したい。

表紙画像

しあわせ節電

著者:鈴木 孝夫

出版社:文藝春秋   価格:¥ 1,200

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