2012年02月08日
『これからの日本のために「シェア」の話をしよう』三浦展(NHK出版)
「シェア型消費からシェア型社会へ」
奥付によると、本書の発行日は2011年2月25日となっている。つまり東日本大震災が起きる2週間前である。「シェア」という消費形態への移行を踏ま えつつ本書は書かれているが、3・11により、「シェア」せざるを得ない状況が立ち現れ、さらに「シェア」することが生み出す価値がクローズアップされ た。図らずも本書が提起するものの意味はさらに大きなものになったといえる。
著者の三浦展(みうら・あつし)氏は消費社会研究家、マーケティング・アナリストで、『下流社会』(光文社新書)に代表されるように、社会状況を鋭く分析した書籍や新しいライフスタイルや消費生活を提案する書籍を数多く出版している。
多くのデータや図式を駆使しながらも、著者の主張は至ってシンプルで「私有主義的消費からシェア型消費へ」というものだ。実のところ、著者は「共費」と いう概念を用いて10年近く前に提案していたという。評者は、ここでいうシェアが経済効率やエコの視点だけではなくて、共有することを通じたコミュニケー ションやコミュニティといった価値の創造につながるものとしてとらえられている点に惹かれた。
現在、孤独死や若者の孤立化など「無縁社会」が指摘されるようになり、それに対して、趣味に基づいた連帯を指す「趣味縁」も注目されているが、そのよう な志向性と近いものだろう。著者は、シェアが「そうした孤独な無縁社会に対して、別の生き方、暮らし方の原理となりうるだろう」(23頁)と述べる。
このような新たな生き方への欲求が絵空事ではなく、データに基づいたものであることも明示される。図式化されているように(図表1-7、40頁)、物質的な幸福感よりも、共感に喜びを見出す人が増えているのである。
ただし、本書を読み進めていくうちに、評者はそこで使われている「コミュニケーション」「共感」といった「美しい」言葉の数々に、ある種の空虚さを感じたのも確かだ。
確かに他人とコミュニケーションをとることや、他人との間で物事を共有したり共感するということは悪いことではない。しかし、生身の人間には、そこに嫌 悪感や嫉妬、解り得なさも当然生じるはずである。恋愛やセクシュアリティといった問題も当然かかわってくるだろう。「消費者」とくくられたデータからは、 なかなかそういった個別の身体性のようなものが見えてこない。
消費の次元ではなく、シェア型の社会を構築するという大きな視点から考えた場合、シェア型の住居やコミュニティにおける人々それぞれの経験を拾い上げてそれをフィードバックするような研究も重要になってくるだろう。
巻末に収録されている対談「福祉もシェアへ」(広井良典氏×三浦展氏)は、この点にまで踏み込むものだ。そこで広井氏はシェアを「社会全体の構想にかか わる議論」としたうえで、そのなかで日本人が「開かれた関係性」をどうつくっていくかという重要な提起をしている。「シェアせざるを得ない」社会で、これ から問われていくのはそこだろう。
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