2012年02月21日
『歴史を変えた火山噴火』石 弘之(刀水書房)
「過去は警告する」
「近い将来、関東や東海地方を大地震が襲うことはほぼ確実だ」という認識が定着してきた。わからないのは「それがいつか」ということだけだ。環境ジャーナ リスト、そして環境問題研究者である著者も「過去半世紀近く環境や災害を追ってきたが、これから数十年以内に、その規模はどうであれ、何らかの破局が現実 のものとなると信じている」と、本書のあとがきで語っている。地球の地殻変動は悠久の時とともにゆっくり変化する自然現象で、たかが人間ごときにそれにあらがうだけの力はない。叡知をつくし、科学の発展を最大限利用 しても、そこには限界がある。地震の予知すら、まだ正確にはできないのだ。福島原発の事故で露見したように、原子力の制御も一旦想定外の破綻が生じれば、 ただちにお手上げに近い惨状に陥ってしまう。しかし人間は自然界のパワーをコントロールできるかのように思い込み、災害の危険があるところにも住もうとす る。いや、海を埋め、山を崩してまでそういう所に住まなければならないほど、世界の人口は節操なく増え続けているのだ。
無人の土地で地震や洪水が起きてもそれは単なる「自然現象」だが、人の住んでいるところで起こると「災害」になる、という著者の指摘は、今の私たちが直面 している危機である。予言されている大地震が起これば、未曾有の大災害となることは想像に難くない。だからと言って、私たちはそこで生活することをやめら れないのだ。「今後とも、破局によって挫折するまで人類は暴走をつづけるだろう」という著者の言葉は私たちの心に重くのしかかる。
もちろん大地震は恐ろしい。しかし私たちはあまりに地震と津波のことだけを考えてはいないだろうか。地震の原因となる地殻変動は、火山活動とも密接な関連 を持っている。日本は世界有数の火山国のひとつなのだ。富士山を筆頭にたくさんの活火山がひしめいている(富士山は休火山、という判別は近年改められ た)。しかし、日本における火山噴火の危険性に関しては思ったほど真剣に語られていない。果たして安心していて良いのだろうか…。
日本の火山はいつか必ず大噴火するのではないだろうか。桜島は今でも噴煙を上げているし、三宅島からの長期避難も雲仙普賢岳の噴火と火砕流による事故も、 まだ記憶に新しい。火山活動がもたらす災害で深刻なのは、局地的な被害以上に、国境を越えた広範囲での気象変化を招いてしまうことだ。大噴火の場合は噴煙 によって地表に到達する太陽光が遮られ、地球規模で気温が低くなり、数年にわたって農産物の収穫がままならなくなってしまうのだ。大飢饉がおとずれ、餓死 者が増える。過去に栄華を誇った文明が突然消滅してしまう原因のひとつにこうした大噴火による気象変動があったばかりか、ナポレオンによるロシア遠征の失 敗、そして天明の大飢饉にも、噴火に由来する「火山の冬」が影響していることは、指摘されなければ見逃してしまいそうな視点である。
私たちにとって、もはや避けることはできない太平洋沿岸の大地震が引き金となって富士山が噴火した暁には、本書のタイトル通り「歴史が変わる」かも知れない。未来を考えるには過去を把握する必要がある。本書はそのための恰好な入門書となっている。
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