2012年01月31日
『現場主義の知的生産法』関満博(ちくま新書)
「今だから読みたい、あくまでアナログな仕事術の本」
本書は、明星大学経済学部教授で一橋大学名誉教授の関満博氏が、その仕事術(=研究の作法)の極意を記して2002年にちくま新書から刊行したものである。関氏といえば、日本の製造業、それも地方の中小企業の実態に精通していることで知られる経営学者である。奇しくも先ごろの震災の折は、岩手県釜石 市に講演のために滞在中であったといい、その後も東北の復興とそのために地方の製造業の再建が必要であることを訴え続けている。
そんな関氏を、専門は違えども私は尊敬してきた。何よりもすごいと思うのはその著作の多さだ。10年前の大学院生時代に本書と出会い、まずもって驚いたのは、「エイジシュート」(P142)という言葉だ。これは、著作の数が自身の年齢に追いつくことをいう。
単純に数字の大きさだけを言うならば、若手研究者のほうが有利にも思えるが、論文ではなく著作という確固たるまとまりをもった成果となると、これはある程度のベテランでないとコンスタントには出せないものである。
また関氏の著作の場合、数々の受賞歴が物語るように、単純な数量だけでなく、その質においても優れているのだから、これは驚かずにはいられない。
そして、本書を読んで一番驚かされるのは、そのアナログな仕事術だ。P116の写真にもあるように、氏はいくつかのテーマごとに資料を整理する際、いわ ゆる手提げの紙袋に放り込んで、紙袋ごとその辺に並べておくのだという。別な言い方をすれば、カード式の整理法など精緻な整理術は、かえってその方法自体 が自己目的化してしまい、コストばかりかかってあまり実を結ばないのだ。
また、「電話やメールからひたすら身を隠す」、あるいは「立ち回り先は・・どこでも仕事が可能な形にして」(いずれもP147)おく、といった工夫も、 ますますオンライン化が進み、ネット依存やノートPC・スマホ依存が高まっている昨今からすると、かえって新鮮にすら感じされる仕事術といえよう。
この点で本書は、刊行されたのは10年前であるけれども、いやむしろ、10年前に書かれているからこそ、アナログな仕事術の極意を記したものとして、読 み継がれる一冊なのだと思われる(余談だが、筆者は本書を仕事机の傍らに常備して、行き詰った時によく読み返している)。
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