2012年02月28日
『情報の呼吸法』津田大介(朝日出版社)
「「ソーシャルメディアのフロンティア」にしか見えない風景」
本書は、ジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介氏が、ソーシャルメディアについての現状に触れながら、今後の向き合い方や使いこなし方について、実践的な提案を行っているものである。文体も読みやすく内容も具体的なので、関心のある方々にとっては、格好のソーシャルメディア入門といえるだろう。
評者にとっては2章以降が抜群に面白かった。いうなれば、まさにソーシャルメディアの最先端にいるものでなければ見えない景色が垣間見える思いだった。いや、著作のタイトルになぞらえるならば、フロンティアにしか吸えない空気があるというべきだろうか。
「フォロー数は300〜500人くらいが最適」(P67)といったように、経験に基づいたアドバイスやエピソードが目白押しなのだ。
他にも、情報はストックからフローになる(P80)といった指摘も興味深かった。これは、私の専門であるファン文化・オタク文化の領域でもよく感じる変化である。
最近、韓流アイドルのファンにインタビューをしたところ、彼女らの主たる情報収集手段は、やはりツイッターなのだという。それも蓄積(ストック)していく というよりも、とにかくいちはやく最新の情報をチェックすることに重きを置いているので、この点で、流れゆくツイッターの情報が役に立つのだという。
「ツイッターは『シャー』という音を立てて情報が流れていくみたいなもの」だと語っていたが、かつてのオタクたちがむしろひたすらに「ストック」に重きを置いていたことを考えれば、そこには隔世の感がある。
また第3章のタイトルであり、本書の骨子でもある「情報は発信しなければ、得るものはない」という主張も非常に興味深い。
「ストック」に重きを置いていたのは、かつてのオタクだけでなく、むしろ優等生のガリ勉スタイルも同様であったが、著者に言わせれば、情報はインプットして「ストック」するだけではダメなのだという。
具体的に言うならば、新聞を5紙読み比べて自己満足するくらいならば、むしろ両極端の2紙に絞るくらいでいいのではないかという(P79)。そうでなけれ ば、刻々と変化する膨大な量の情報を、新鮮なうちに入手して、かつ適切な発信に結びつけていくことができなくなってしまうのではないかという。
このように、本書を読み進めていると、ソーシャルメディアのフロンティアの雰囲気に触れながら、我々がこれまでに抱いてきた「情報」という概念そのものが、根本から覆ろうとしている可能性すら感じられてくる。
加えて、更に示唆深かったのは、こうした「フロー」化がますます進むメディアに立ち向かう、強靭なタフネスさを著者が垣間見せてくれることだ。
「人生で大切なことは、全てエゴサーチで学んだ」(P91)とあるように、普通ならば、人目を気にしてビクビクとしてしまうエゴサーチ(=インターネット 上で自分の名前を検索すること)についても、むしろ著者は、自分が発信した情報への反応を確かめるマーケティング戦略の一環としてやっているのだという。
こうした「タフネスな再帰的自己」とでもいうべきものがなければ、フロー化する高度情報化社会は生き残っていけないのだろう。本書は、まさにこれからの時代を生き抜いていくために、必読の一冊といえる。