2012年1月24日火曜日

kinokuniya shohyo 書評

2012年01月24日

『ニッポンのここがスゴイ!—外国人が見たクールジャパン』堤和彦(武田ランダムハウスジャパン)

ニッポンのここがスゴイ!—外国人が見たクールジャパン →bookwebで購入

「文化としての『クールジャパン』」


 本書は、2006年に放送が開始されたNHKの衛星放送番組『COOL JAPAN 発掘! かっこいいニッポン』で交わされたトークや、外国人による取材の内容をプロデューサーの堤和彦氏がまとめたものだ。スタジオでのやりとりを忠実に 再現しようとしたものではないが、その要点がプロデューサーの視点から的確に凝縮されているため、163回(本書の出版時点)にもおよぶ同番組の傾向が ざっくりつかめるものとなっている。

 「クールジャパン」というと、アニメやマンガなどのコンテンツやコスプレのようなポップカルチャーを連想しがちだ。本書もマンガやJ-POPから始まっ てはいるが、居酒屋、商店街、自己鍛錬、夫婦の絆といった種々のものに触れている。ここで挙げられているものには、ビジネスやサービスから日本的な振る舞 いや習慣、さらには精神性のようなものまで含まれているのが特徴だ。そして、東日本大震災をめぐって、出演していた外国人からのメッセージも採録してい る。

 特に印象に残ったものの一つが、「商店街」(2011年7月30日放送分)だ。商店街は「シャッター通り」と化している様子が度々テレビニュースで報じ られるなど、その寂れていく様子が語られることが多いが、次のような発言は、日本人自体が負の側面から語る枠にはまってしまっていることを気づかせてくれ る。

「僕は商店街の連帯感が気に入ったよ。住まいと商売が一体になっていて、店の人とお客さんの関係がすごく近いよね」(カナダ人・パトリックさん)

「商店街はまるで街の心臓で、人々の動きは鼓動なんだよ」(ブラジル人・ザレさん)

 もう一つが「修行」(2010年12月18日放送分)だった。日本人へのアンケート結果からは、「修行」としてとらえているものに「生きること」「人間 関係」「仕事」「スポーツ」「ダイエット」などが含まれていた。この日本人の飽くなき自己鍛錬については賛否が分かれたようだ。

 「クールジャパン」をめぐっては、コンテンツをいかに海外に売り込むかという議論や、政策としてどのように推進するかという議論が多い。もちろん、それらも重要な論点ではあるが、そのような議論とは一線を画しているのが、本書のユニークネスだ。

 終章「『クールジャパン』を世界に広めるために」では、本書(および同番組)が、コンテンツだけではなくて振る舞いや精神性などを含む文化の拡散を目指すものであることが再確認され、四つの提言がなされている。

 日本人はとかく外国人による日本論が好きだ。好きというよりは外国人からどう見られているかを過剰に意識しているのだろう。

 評者は、上記のような本書の企画意図は成功していると思っているし、また楽しく読んだ。ただ、外国人の言葉を借りて日本の技術の(あるいは技術に裏打ち された日本の)優越性を確認しようとする「テクノナショナリズム」に陥ってしまうことに対してはさまざまな意味で警戒が必要だと考えている(もちろん、本 書がそのようなものではないことは強調しておきたい)。たとえば、「フクシマ」は日本の技術信仰を根幹から揺るがすものだ。「技術立国」という言葉が安易 に使われることが多いが、同時に、一つひとつを冷静に見ていく眼もわれわれには必要なのだろう。


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