2010年8月3日火曜日

asahi shohyo 書評

ブルーカラー・ブルース [作]タカ

[掲載]2010年7月25日

  • [評者]南信長(マンガ解説者)

■過酷な職場 若者の実体験

 不況続きの昨今、どんな仕事でも"あるだけマシ"ではあろう。が、自分の能力や適性、業務内容を顧みもせず、「何でもいいや」で職に就くと、本書の主人公と同様の陥穽(かんせい)にハマりかねない。

 たまたま電気工学科に進み、最初に内定が出た会社が工事会社だったというだけの理由で、電気工事の現場監督として働くことに なった青年の労働環境は過酷だ。連日20時間もの長時間労働。職人たちの罵声(ばせい)を浴びつつ、自らも泥まみれになって作業する。現場が終わっても図 面作成の仕事があり、会社に泊まることもしばしば。

 そんな過労死寸前の生活の中で〈俺(おれ)はなんでこんなところにいるんだ?〉と自問自答しながら、辞めるのは〈「逃げてい る」だけなのではないか〉との思いから、退職する勇気もない。それでも、ある事故がきっかけで首尾よく辞めることができたものの、今度は再就職で壁にぶつ かり……。

 出口の見えない迷宮でもがき苦しむ青年の姿を通して働くことの意味を問うた本作は、作者の実体験に基づくものらしい。デビュー 作ということを差し引いても、描線、語り口とも生硬で、いわば"むき出し"の表現だ。しかし、この作品に限っては、その飾りのなさが説得力を生んでいる。 今どき、技術的に優れた描き手はいくらもいるが、描きたいこと、伝えたいことをここまでストレートにぶつけてくる作家は逆に貴重。願わくば、この一冊で燃 え尽きてしまわぬよう、充電と研鑽(けんさん)を。

    ◇

 初出は『Nextcomicファースト』

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