2010年8月3日火曜日

asahi shohyo 書評

親が死ぬまでにしたい55のこと [著]親孝行実行委員会

[掲載]週刊朝日2010年8月6日増大号

  • [評者]長薗安浩

■親孝行にもマニュアルが求められている

 『親が死ぬまでにしたい55のこと』……実に古典的な企画である。本来なら雑誌の第二、あるいは第三特集ぐらいで扱うのがふさわしいベタな内容なのだが、これが1冊の本として売れている。

 著者は「親孝行実行委員会」、これまたベタである。しかも、この会の(名前も顔もわからない)委員たちが集めたという孝行エピ ソードに拠って55の事例とする粗っぽさには、正直、苦笑する。雑誌編集に数年関わった者の手にかかれば、この本に列挙されている短い体験記ぐらい、3日 もあれば創作できるからだ。

 このようにうがった見方をしてしまうのは、そもそも親孝行なんて他人から教わるものなのか、という疑問が私にあるからだろう。

 86歳の父親と77歳の母親をもち、もう三十余年離れて暮らす愚息の私ですら、この本に紹介されているほとんどのことは実践し てきた。それらは誰かに教示されたわけでなく、両親とのやりとりや思い出から湧きあがった感情にしたがっての行動だった。すべてはまず親に連絡をとり、次 に顔を合わせ、その表情を見つめながら言葉を交わすうちに思いついたものばかり。別に親孝行をしなければならないと思っていたわけではなく、したくなった からしたのだ。だから、この本にもある「用事がなくても親に電話してみる」と「親に会いに行く」さえ実行すれば、その後は、個々の親子関係ならではのアイ デアを大切にしたらいいと私は思う。

 そう思う一方、親孝行にもマニュアルが求められているという事実に私は興味をもった。ひょっとしたら、昨今やたらと目だつ親子 間の殺傷事件と同じ病根をかかえているのかもしれない。と考えれば、たとえマニュアル頼りであっても、親孝行が実践される状況は救いとなる。なぜなら、親 子間に適当な距離感とコミュニケーションが生じるから。

 ちなみに50歳になった私は、「せめて親より先には死なない」と念じながら今日を生きている。

表紙画像

親が死ぬまでにしたい55のこと

著者:親孝行実行委員会

出版社:泰文堂   価格:¥ 1,260

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