2010年8月17日火曜日

asahi shohyo 書評

縄文聖地巡礼 [著]坂本龍一、中沢新一

[掲載]週刊朝日2010年8月20日号

  • [評者]長薗安浩

■未来のあるべき方向性を探る旅

 あの9・11をきっかけに、ニューヨーク在住の坂本龍一は資本主義やグローバリズムの意味について深く再考しはじめた。中沢新一は日本にいて、事件が象徴しているものについて考え抜こうとした。

 2人がたどりついたのは、国家原理と経済のシステムが一体化した現況をいかに突き抜けるか、という命題だった。そのために必要 な想像力と思考の在処(ありか)を探そうと、二人は縄文人の記憶を訪ねる旅に出た。なぜなら、〈国家の先を考えるには、国家が生まれる前の状態の人間のも のの考え方や感受性が、どういうものであったかを知る必要がある〉と定めたからだ。旅は三内丸山遺跡からはじまり、諏訪、若狭・敦賀、奈良・紀伊田辺、山 口・鹿児島を巡って再び青森へ。

 こうして編まれた『縄文聖地巡礼』には、縄文文化の名残が写真とともにいくつも紹介されている。中国や朝鮮半島から渡ってきた 人々によって日本列島に国家がつくられる以前にあった縄文の古層にふれ、そこから縄文人の価値観を探る手法は、中沢が得意とする「アースダイビング」であ る。学術的にはあやしいアプローチに違いない。だが、諏訪大社上社前宮で意図せずに古代の意識にふれる体験をした私は、2人の推察に強く共感できた。

 矛盾したことを自分の中に引きうける術を知り、複数の価値を認めて暮らしていた縄文人。2人は彼らを礼賛する一方で、矛盾を許 さない一神教によって突き進んできた現在の資本主義のかたちを批判する。その象徴的な光景が敦賀半島に立つ美浜原発で、これをどうやって軌道修正できる か、と2人は対話を深める。そこから「旧石器のハイデッガー」なる新語が飛び出す。他にも「南方的」とか「非線形的」といったキー・ワードが登場し、未来 のあるべき方向性が探られていく。

 この本は、いわば縄文期に的をしぼった温故知新の一冊で、未来思索のヒント集である。決して流行(はやり)のパワースポット本ではないので、その点、お間違えなきよう。

表紙画像

縄文聖地巡礼

著者:坂本 龍一・中沢 新一

出版社:木楽舎   価格:¥ 1,995

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