これが物理学だ! マサチューセッツ工科大学「感動」講義 [著]ウォルター・ルーウィン
[評者]川端裕人(作家) [掲載]2012年12月02日 [ジャンル]科学・生物
■熱血教授、好奇心わしづかみ
アメリカの名門マサチューセッツ工科大学(MIT)の教養課程 で、物理学入門の講義を担当する熱血教授がいる。ある日の講義風景はこんなふう。重さ15キロの鉄球をつり下げ、自分の顎(あご)の下まで引き上げてから 振り子運動させる。手を離れた鉄球はもの凄(すご)い勢いで戻ってくるが、顎の直前でぴたりと止まり次の周期に入る。決して顎を砕いたりしない。学生は、 手に汗を握る実演によって、鉄球が手放された高さまでしか戻らないことを知る。つまり、エネルギー保存の法則を体感する。
講義では毎回なんらか の実演が行われ、教授自らが振り子の重りになったり(力学)、スポットライトを使い室内で青空や虹を再現したり(光学)、様々な方法で学生たちの知的好奇 心をかき立てる。本書はその「脳みそをわしづかみにする」講義を熱血教授みずから再現したものだ。
講義の意図は「物理学を好きにさせること」。 電気と磁気を統合する方程式を学んだ後、学生に一本ずつ水仙を贈る"儀式"が象徴的だ。熱血教授いわく「マクスウェルの方程式四つ全部を初めてこんなふう に目の当たりにし、その完全さ、美しさ…を鑑賞する機会は、きみたちの人生でたった一度、これっきりだろう」。「(方程式を覚えているより)見えたものの 美しさを覚えているかどうかのほうが、ずっとずっと重要」と。
もっとも、「楽しさ」「美しさ」を伝えるだけで終わらない。初期講義で物理学の基 礎は測定だとし、必ずつきまとう様々な誤差や、その取り扱いを述べる部分は秀逸。自身がかかわったX線宇宙物理学草創期の挿話とあいまって、世界を説明し つくそうとする物理学の欲望と方法を鮮やかにイメージさせてくれる。
自分にもこんな先生がいたら! と思う人も悲観されないよう。講義はすべてウェブ公開されている。検索すれば簡単に見つかるし、本書にも参照サイトが記されている。
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東江一紀訳、文芸春秋・1890円/Walter Lewin 36年生まれ。マサチューセッツ工科大学教授。
この記事に関する関連書籍
著者:ウォルター・ルーウィン、東江一紀/ 出版社:文藝春秋/ 価格:¥1,890/ 発売時期: 2012年10月
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