池上彰の政治の学校 [著]池上彰
[文]速水健朗〈フリーライター〉 [掲載]2012年12月20日
■「変えたい」からの脱却を
説明上手として人気を集める池上彰だが、彼の解説のどこが人と違っているのだろうか。
著者は、前回参院選の番組で公明党と創価学会の関係、民主党と日教組の関係をきちんと説明した。これらはタブーなのではなく「政治のプロ」にとっては常識 過ぎて口に出さないことなのだという。だが、観(み)る側にとってそれは必ずしも自明のことではない。つまり説明不足が「タブー」を生んでしまい、作り手 と受け手の齟齬(そご)という"難しさ"が発生してしまうのだ。
報道する側にとっての「当たり前」を崩していくスタンスが、池上のわかりやすさの奥義だ。池上流とは、前提を飛ばさず、むしろていねいに説明するところにあるのだ。
本書は、池上が政治を基本から考えるという内容のもの。この国の選挙、政党、官僚などの制度を解説し、政治の基本を考えていく。ここでも大事にされるのは前提の部分である。
本書が発売された時期は9月末。従って、いまの混迷する政党乱立状態が解説されているわけではない。だが、この国の政治が陥っている前提となる構造は、池上流で説明される。
日本人のこれまでの政治選択は「新しいものに期待して」「飛びつく」ということの繰り返しだったという。
「とにかく変えたい」が選挙のテーマになっているうちは、同じことを繰り返してしまう。なぜなら、政策の違いに基づかない選択では、政権は変わっても中身は変わらないからだ。
耳に心地よい提案ばかりを主張して選挙に通ることと、それを現実の政治の場で実行していくことは別のこと。背景となる政治信念や政治の場での鍛錬を重視しなくては成熟はない。
今日は総選挙。「とにかく変えたい」だけに捕らわれてないか。最後に自分に問いかけた上で投票に出かけたい。
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朝日新書・798円=3刷13万部
この記事に関する関連書籍
著者:池上彰/ 出版社:朝日新聞出版/ 価格:¥798/ 発売時期: 2012年09月
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