古書店、細やかに結ぶ縁 福岡・北九州の商店街に開店
[文]原口晋也 [掲載]2012年12月25日
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福岡県北九州市の門司港地区の中心部から外れた商店街「中央市場」にこの夏、小さな古書店がオープンした。「古書肆(こしょし)らるしびすと」。 フランス語で「古文書の管理人」の意味だ。中古本の市場でも量販店が幅をきかせるご時世。人通りもさほどない市場に出店した店主は、小口の商いならではの きめ細かいサービスを模索している。
店主の垣松三千人(みちと)さん(50)は、午前10時に店を開けると、水を軽く絞った布で新書のカバーを 丁寧にぬぐい始めた。鮮魚店、精肉店、乾物屋など食品関係の店が軒を連ねる市場にあって異色の古書店は、10平方メートルほど。天井からつるした裸電球 が、書棚にぎっしり並んだ1300冊を照らしている。
「ローマ帝国衰亡史」や大学時代に学んだ仏語にちなんだフランス関連の本があるかと思え ば、「石川啄木全集」「子規全集」「横光利一全集」などアメ色になった文学全集も並ぶ。小さな店だから専門性を高めないとダメだと垣松さんは考えている が、まだ焦点を絞り込めていない。
正午すぎ、赤ちゃんを抱いた主婦が、フランスの民話を解説した本を買っていった。今のところ来店客は日に5〜6人。購入する人はさらに少ない。
それだけに、ネット販売は大きな柱だ。書棚にあった「上田敏訳詩集」を店のフェイスブックで見たという大阪の女性から、本の内容を知りたいとメールが届い た。目次など数ページを撮影して返信することにした。スミレ、キキョウなどの押し花が挟まったページもそのまま写して送った。
「他の古本屋なら前の人が読んだ形跡を取り除くんだろうけど、これもこの本の歴史だから」
女性からすぐ返信があった。〈購入します。本の中身と併せ、押し花も楽しみにしています〉。垣松さんは、顔をほころばせながら、お礼のメールをしたためた。〈文語の訳詩集なので、読むとリズムがあります。ぜひ音読してみてください〉
長年、東京での書店勤めを経て帰郷し、店を開いた垣松さんは言う。「要は、ディスカウント品を売るのか、古本を売るのか。ぼくは後者かな」
問い合わせは、垣松さん(070・5690・8844)へ。
この記事に関する関連書籍
著者:上田敏/ 出版社:新潮社/ 価格:¥341/ 発売時期: 1968年
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