2012年4月26日木曜日

asahi shohyo 書評

マリー・アントワネット 運命の24時間 [著]中野京子

[評者]逢坂剛(作家)  [掲載]2012年04月22日   [ジャンル]文芸 

表紙画像 著者:中野京子  出版社:朝日新聞出版 価格:¥ 1,680

■ヴァレンヌ逃亡、劇的に再現

 著者の専門はドイツ文学だが、近年は西洋文化史、政治史への傾倒が著しく、絵画を通じて〈絵解き〉をする仕事に、精彩を放っている。
  一時、小説への志向を見せた著者は、単なる美術評論をする気など、もとよりない。絵画の背後に広がる、複雑極まりないヨーロッパの裏面史を、華麗な筆で浮 き彫りにする。本書では、フランス革命の象徴的な存在、マリー・アントワネットの一挿話、ヴァレンヌ逃亡失敗事件を取り上げ、追う者と追われる者の迫真の 攻防戦を、ドラマチックに再現してみせる。淫乱(いんらん)、贅沢(ぜいたく)、傲慢(ごうまん)などなど、あらゆる悪罵を浴びせられるアントワネットだ が、ここでは好意的な王妃像が呈示(ていじ)される。
 逃亡を助けるフェルゼン、阻止せんとするラファイエット、優柔不断で頼りにならぬルイ16世、その他関係する人びとが個性豊かに、描き分けられる。脱走と追跡のカットバックは、さながら往時の西部劇を見るようで、手に汗を握らせる。
    ◇
 朝日新聞出版・1680円

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著者:中野京子  出版社:朝日新聞出版 価格:¥1,680

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