日本でいちばん大切にしたい会社 [著]坂本光司
[文]小柳学(編集者) [掲載]2010年04月25日
■働くこと本来の精神とは
人員整理やコスト削減が課題の経営者から見ると、2冊合わせて50万部というこのベストセラーに、あり得ないことが書かれていると思うのではないだろうか。
指や脚などの義肢装具を製造する中村ブレイス。最初の社員は1時間も働くと「疲れた」と帰るひ弱な青年だった。通常勤務ができるまで7年半、社長は見守り 続けた。精密機器を製造する樹研工業の社員の採用は学歴、性別などを問わず先着順。社員が長期入院した時、3年半もの間、月給のみならずボーナスも全額支 給した。
チョークを製造する日本理化学工業は、50人の社員のうちの7割が障害者。はじまりは、養護学校の先生に「働く体験」だけでもさせてほ しいと頼まれ、障害をもつ少女を1週間体験就業させたこと。今日で終わりという日、社員全員が「私たちがみんなでカバーします」と採用を社長にお願いす る。社長は、工場の機械を彼女たちに合わせて変えていく。
登場する会社では、利潤追求から遠い人を雇っているのに経常利益を確保している。しかも景気の波に左右されない。日本理化学工業のダストレスチョークは市場の3割を占め、中村ブレイスには海外から購入に来るほどの人気だ。いったい、どういうことなのか。
たとえば、日本理化学工業の場合、障害者を雇用する会社の内容を知って感動した人たちが、「役に立ちたい」というかたちで取引先が増えていく。"応援する 者は応援される"なかで会社の経済が動いているのだ。業績向上ばかりが問題にされる今日、本書が売れるのは、「人の役に立つ」という経営や働くこと本来の 精神を喚起されるからだろう。著者は、会社が実現すべきなのは第一に「社員とその家族の幸せ」、第二に「外注先・下請け社員の幸せ」という。お客や株主よ り優先される会社のあり方の提言も、会社の存在の根本を読者に考えさせる。(あさ出版=1470円、56刷35万部、「2」15刷15万部)
(小柳学 編集者)
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