2012年4月26日木曜日

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〈海洋生物・ながぐつ日誌〉足糸・タイラギ編
タイラギの貝殻と足糸(手前)。タイラガイ、タチガイという通称もあるイガイ目・ハボウキガイ科に属する二枚貝。殻は飴細工のように薄く割れやすい

■倉谷うらら(海洋生物研究家)
「足糸」(タイラギ編)

■鞄から貝の糸
 「ねぇ、コレ、なんともきれいな色でしょう?」
 私は一時期、タイラギという貝の「足糸(そくし)」(貝が出す糸状のもの)の束をいつも鞄(かばん)にしのばせ、人に会うたび取り出しては見せていた。
 それはかれこれ10年ほど前、ふと通りがかった魚屋に、タイラギが並んでいた。長辺は約30センチ。深い緑色をした三角定規のような形の二枚貝だ。魚屋店主が教えてくれた。
 「貝柱はそのままスライスして刺し身がいいよ。フライも絶品だナ。ヒモは短く切ってバター焼きにすると美味(おい)しいね」
 貝のカラを蒐集(しゅうしゅう)している者としては、食材として美味しく、かつ、同時に貝殻も手に入るとなると、魅力はたちまち2倍になる。
 タイラギの調理中、「忘れられない瞬間」が訪れた。キッチンの照明に照らされキラリと輝くものが!……「足糸」だった。先端に小さな砂粒や小石、貝殻の カケラなどがついていて、一見すると茶色い糸くずのよう。よく洗って、見てみると、一本一本の糸は緑がかった茶色を基調に、金色の輝きを放っている。決し てギラギラとした輝きではなく、気品あふれる艶(つや)なのだ。イガイのゴワゴワ足糸は見慣れていたが、こんなに美しい足糸を目にするのは初めてのことで あった。



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