2011年1月26日水曜日

asahi shohyo 書評

フェイスブック—若き天才の野望 [著]デビッド・カークパトリック

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2011年1月23日

表紙画像著者:デビッド・カークパトリック  出版社:日経BP社 価格:¥ 1,890


■社会を変える情報交換システム

 マーク・ザッカーバーグ、26歳。チュニジアの政権崩壊でも大きな役割を果たし、注目を集めるインターネット上の世界最大の交流サイト、「フェイスブック」の創設者である。昨年末には、米タイム誌の「今年の人」にも選ばれた。

 本書は、彼が2004年2月に米ハーバード大学の寮の一室で始めてから、瞬く間に6億人に迫る利用者を獲得するまでの急成長ぶりをたどっている。

 同社を描き、ゴールデングローブ賞に輝いた映画「ソーシャル・ネットワーク」とは、趣を異にする。創作を交え、アイデアの盗用 で彼を訴えた同窓生らとの対立を軸にした映画に対し、本書は、本人を含む徹底取材をうたう。もっとも、3ページに及ぶ取材先リストに先の同窓生は含まれ ず、本人に近い立場で書かれたことは否めない。

 それを差し引いても、「少々世間知らずかもしれないが、怖いもの知らずで負けず嫌いで、大胆で生意気でもある」20歳そこそこ の青年が、マイクロソフトやグーグル、そしてワシントン・ポスト紙まで、トップと堂々と渡り合いながら歩んできた足跡は、一読の価値がある。若い才能を生 かす米国社会のダイナミズムを感じさせる。

 フェイスブックは実名を最大の特徴とする。今や地球上の約10人に1人が、実名で仕事から趣味まで個人的な情報を交換する場がネット空間に生まれ、意見の集約や、ビジネスにも不可欠の手段となっている。

 その事実に驚くが、それが社会をどう変えていくのか。本書のもう一つの読みどころだ。

 「より透明な世界はより公正な世界をつくる」というのがザッカーバーグの信念だという。しかし、膨大な個人情報がどこでどう管理されるのか、不安はつきまとう。一歩間違えば、監視社会にもなりかねない。

 日本は、ネットは匿名で、フェイスブックが広がっていない数少ない国の一つだという。

 実名でつながった広大な海に浮かんだ匿名の島であり続けるのか。それが日本に何をもたらすのか。社会のありようとも絡む重い問いが胸に残る。

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 滑川海彦ほか訳、David Kirkpatrick フォーチュン誌記者をへてフリー。

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