2008年2月26日火曜日

asahi book shuppan 出版 soushisha 草思社

草思社支援に書店の輪 業界の悪循環は今もなお

2008年02月26日

 民事再生法による再建手続き中の出版社、草思社(東京都文京区)を応援する動きが書店に広がっている。同社には全国の書店から激励のファクスが届 くほか、店頭で支援フェアを展開する店もある。だが、出版業界の不振には歯止めがかからず、出版社と書店をめぐる状況は厳しさを増すばかりだ。

写真草思社の書籍約500点が並ぶ再建支援フェアのコーナー=東京・池袋のジュンク堂池袋本店で

 ジュンク堂書店の池袋本店は、いま約500点を並べた「草思社再建支援フェア」のコーナーを設けてい る。民事再生のうわさを聞いた時点で取次の在庫をかき集めた。個性的だった草思社の本にはファンも多く、田口久美子副店長は「他に代え難い書籍を必要な人 に行き渡らせるのも、大型書店の役割」と語る。

 今回のように、書店が行き詰まった出版社を応援するケースは珍しい。東北や関東、近畿の中小18店の共同仕入れを手がける「志夢ネット」(同文京 区)も加盟店がフェアを開催中だ。大手書店中心の配本が進むなか、「中小にも商品を供給してくれた草思社の恩義に報いたい」と担当者。

 ティーエス流通協同組合(東京都千代田区)も、草思社の書籍30点をセットにし、都内の加盟店約150店から注文を募った。

 工夫を凝らした書名と、広告と配本を連動させる販売手法で草思社は多くのベストセラーを生んだ。中野孝次著『清貧の思想』ほか、ミリオンセラーのF・アルベローニ著『他人をほめる人、けなす人』といった翻訳書でも知られる。

 だが、最近は大ヒットがなく、斎藤孝著『声に出して読みたい日本語』がミリオンを記録した01年度に28億円だった売り上げが、昨年度は13億 5000万円に落ち込んだ。バブル崩壊による土地売却損の影響もあったが、致命的だったのは「従来のベストセラーづくりの手法が通用しなくなった。いい本 を出しても売れない。それが正直な思い」と木谷東男社長は振り返る。

 出版業界に詳しいフリーライターの永江朗さんは、草思社不振の背景に、書店の疲弊があると指摘する。90年代半ばに約2万3000店あった書店が現在は約1万7000店。生き残るため、早めに返本して、仕入れの資金を回収する動きに拍車がかかっているという。

 「草思社のような人文社会系の一般書籍は、書評が出て、口コミで評判が広がって売れていく。書店はその間、本を蓄えるダムのような役割を持っていた。だが今は、その余裕がなくなってきている」

 一方で書籍の新刊点数は年々増え、「出版年鑑2007」によると06年は約8万点。90年に比べて倍増したが、販売額は2割増の約1兆円にとど まった。出版社は新刊を出すと取次から前払い金が入るが、返本が多いと最終的に過払いが発生し、それを埋めるためにもまた新刊を出す。

 草思社の新刊も90年代前半は50点前後だったが、昨年度は過去最多の108点にまで急増した。出版ニュース社の清田義昭代表は「その結果が書籍全体で4割近い返本率。草思社の問題から、悪循環にはまりこんでいる現状を問い直す契機にしなければならない」と話している。



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出版ニュース

草思社が民事再生法適用申請 負債総額22億5千万円

2008年01月09日

 日本語ブームを巻き起こした「声に出して読みたい日本語」などで知られる中堅出版社の草思社(東京都文京区、木谷東男社長)が9日、東京地裁に民 事再生法の適用を申請した。負債総額は22億4789万円。複数の企業が支援を表明しており、事業は継続する方針。出版市場は90年代半ばから縮小を続け ており、多くのベストセラーを生み出してきた中堅出版社の民事再生法申請は、出版不況の象徴といえそうだ。

 同社によると、長引く出版不況で売り上げが低迷し、有利子負債が経営を圧迫、支援企業の下で再建を目指すことにした。店頭で書籍は購入できるとい う。2月中をメドに再建計画を詰め、3〜4月に再スタートを切りたいという。同社の出版事業は最盛期の97年には31億9000万円の売り上げがあった が、昨年は13億6000万円に落ち込んでいた。

 草思社は68年創立。個性的なネーミングで知られ、「間違いだらけのクルマ選び」を始め、「清貧の思想」「平気でうそをつく人たち」「他人をほめる人、けなす人」などのベストセラーを生み出してきた。

 堅実な経営で知られた出版社の再生法申請に、業界の衝撃は大きい。出版ニュース社によると、06年の書籍の実売金額は96年から900億円減の1 兆円程度に落ち込み、返品率は40%程度で高止まりしている。業界関係者は「草思社はベストセラーを出す力がある出版社。出版不況もここまで来たかという 思いだ」と衝撃を受けている。






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