2013年7月9日火曜日

asahi shohyo 書評

世界に広がった人類、多角的に迫る 「人類の移動誌」刊行

[文]大村治郎  [掲載]2013年07月02日

表紙画像 著者:印東道子  出版社:臨川書店 価格:¥ 4,200

 人類はなぜ地球の隅々にまで広がったのか。考古学、遺伝人類学、文化人類学、言語学などの専門家25人が、様々な角度から人類の移動の謎に迫る研究書「人類の移動誌」が出版された。
 国立民族学博物館(大阪府吹田市)で2008〜12年に行われた共同研究(代表=印東〈いんとう〉道子・同館教授)の成果をまとめた。
 人類は1千万〜600万年前のアフリカで誕生したとされる。猿人、原人、旧人などが現れては消え、約20万年前に誕生した新人(ホモ・サピエンス)が約6万年前にアフリカから出て世界に拡散したと推定されている。
  山極寿一・京都大大学院教授は、人類が異なる環境へ移動できた理由として、安全な泊まり場と食事場所の確保のほか、共同での子育てなどを指摘。小林青樹・ 国学院大栃木短大教授らは、日本列島に移動してきた人類に注目。東日本では「縄文の壁」が各地に存在して、弥生文化が伝わるのに長期間を要したことなどを 説いている。
 13世紀以来、ユーラシア大陸に広く展開したモンゴルの人々が、旅立ち、去ることを評価するのに対し、日本では「流浪」「追放」と いった否定的なイメージがあり、旅立つことを敗者の術(すべ)のように思いがちだという小長谷(こながや)有紀・国立民族学博物館教授のコラムも興味深 い。
 「人はどのような時に移動するのか」などをめぐる総合討論もおさめた。人類の移動は食糧を求めて行われ、気候変動の影響を大きく受けたほか、「好奇心」も要因となったという。臨川書店刊、4200円(税込み)。

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人類の移動誌

著者:印東道子/ 出版社:臨川書店/ 価格:¥4,200/ 発売時期: 2013年05月

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