2013年7月22日月曜日

asahi shohyo 書評

丘の上の修道院 ル・コルビュジエ 最後の風景 [著]范毅舜 [訳]田村広子

[文]保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)  [掲載]2013年07月14日

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ラ・トゥーレット修道院の教会堂

表紙画像 著者:范毅舜  出版社:六耀社 価格:¥ 3,150

 「変化」をめぐる写真集だ。舞台は、フランス・リヨン近郊、緑の丘の上に立つラ・トゥーレット修道院。建築家ル・コルビュジエの晩年の代表作のひ とつである。そして著者は、敬虔(けいけん)なカトリック教徒でもある写真家。20年前に同修道院を訪れた際、装飾品一つない箱状の建物を生理的に受け入 れられなかった経験を持つ。
 そんな彼に、ラ・トゥーレットの神父から招待状が舞い込む。そして、無神論者だったル・コルビュジエが、自分が死ん だ際には亡骸(なきがら)を同修道院の教会堂に一晩留め置いてほしいと願っていて、それが叶(かな)えられたことを知る。写真家の心に変化が生じる。たと え信仰がなくとも、真理を求め、時には変革を辞さない点において、芸術家と宗教家は同類であるのではないか……。
 建物だけが主役ではない。緑の 丘の中で屈(かが)んでいる2人の男を遠くから捉えたのどかな写真がある。添えられたキャプションを見てはじめて、修道院の畑で人参(にんじん)を掘って いる神父の写真であることがわかる。このような日常にも身をおいていればこそ、写真家は、教会堂に射(さ)し込む光を主題に選んだときも、劇的にコントラ ストをつけるのではなく、日常的な柔和な変化として捉えるべきだと判断することができたのだろう。それはきっと、「命は人間を照らす光であった。光は暗闇 の中で輝いている」という聖書の一節で語られている、「光」についての理解でもあるはずだ。
 しかも筆者は、建築家決定のプロセスにおいて大きな「変化」があったことなども紹介していて、20世紀のフランスにおける宗教建築をめぐる物語としても読み応えがある。
    ◇
六耀社・3150円

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丘の上の修道院 ル・コルビュジエ 最後の風景

著者:范毅舜/ 出版社:六耀社/ 価格:¥3,150/ 発売時期: 2013年07月

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