2013年7月3日水曜日

asahi shohyo 書評

ぼくがいま、死について思うこと [著]椎名誠

[文]長薗安浩  [掲載]2013年07月05日

表紙画像 著者:椎名誠  出版社:新潮社 価格:¥ 1,365

■尊厳死、いざとなったら選択したい

 好奇心の赴くまま辺境の地へ出かけては馬で駆け、カヌーや筏に乗り、車を走らせ、夜になれば、仲間たちと焚き火を囲んで酒を飲む。そんな生活を長年送りながら大量の連載原稿を書き、写真を撮り、映画を作ってきた作家、椎名誠が自分の死について考えた1冊。
  きっかけは、67歳で受けた人間ドック後に主治医が発した、「あなたは自分の死について真剣に考えたことはこれまで1度もないでしょう」という問いかけ だった。小馬鹿にされていると感じながらも、そのとおりだったからしょうがない。椎名はまず家族や友人の死の記憶をたどり、日本の墓石や納骨方法の特殊性 にふれ、それから世界各地の葬儀や墓に関する知見をくわしく紹介する。
 チベットの鳥葬、モンゴルの風葬、ラオス山岳民族のジャングル葬、ネパー ルとインドの水葬などは、椎名自身が現場に足を運んでいるだけに、その実態がよくわかる。他にも、アメリカの実状やイスラム教の事例を調べたり、イギリ ス、フランス、韓国、沖縄、さらにはゾロアスター教の戒律と日本の習俗の類似点などにも言及。いわば「椎名誠による死生観の比較文化論」的な内容が、終盤 まで展開する。
 椎名がようやく「自分の死」についての考えを書くのは、この後だ。身辺に起きた変化をまじえて思いを綴るのだが、その思索の核心 は、〈友よさらば──少し長いあとがき〉にまとまっている。20歳のときに自死した親友への忸怩(じくじ)たる思いを吐露し、いじめによる子どもの死につ いて、自身の苦い体験も添えながら〈死ぬしかない、と思いつめないでほしい〉と訴える。尊厳死にもふれて深く共感の意を表明、いざとなったら自分も選択し たいと本書を通じて家族に伝えていた。
 ところで、椎名は今も毎日、ヒンズースクワット300回、腹筋200回、腕立て伏せ100回、背筋20回をこなすらしい。現時点で、死からもっとも遠い69歳である。

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著者:椎名誠/ 出版社:新潮社/ 価格:¥1,365/ 発売時期: 2013年04月

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