2012年9月25日火曜日

asahi shohyo 書評

「熊本方式」で犬猫殺処分減らせ 獣医師、活動を本に

[掲載]2012年09月21日

取り組みに参加するペットショップ。責任を持ち、飼ってもらえるよう客と話し合う=熊本市中央区水前寺5丁目 拡大画像を見る
取り組みに参加するペットショップ。責任を持ち、飼ってもらえるよう客と話し合う=熊本市中央区水前寺5丁目

表紙画像 著者:松田光太郎  出版社:熊日サービス開発 価格:¥ 1,050

 全国どこでもなかなか減らない犬猫の殺処分。そんな中、処分数をゼロに近づける活動で成果をあげ、全国的に注目されているのが「熊本方式」。他の地域とは何が違うのか。9月20日からは動物愛護週間。「殺処分ゼロの理由(わけ)」 (熊日出版)を出版した熊本市動物愛護推進協議会の松田光太郎会長(61)にあらためて取り組みを聞いた。
  「本当に飼えないの?」「誰かに譲れないんですか」。市動物愛護センターに犬を殺処分して欲しいという飼い主に、職員は厳しく問いかける。決して安易に受 け入れない。松田さんは「嫌われてもいい。泣かせるくらい、飼い主に『何をしているんだ』と問うべきなんだ」と強く指導する。
 同協議会は市動物愛護センターと協力し、殺処分を減らす活動をしている。2002年、市が動物愛護団体や市獣医師会、ペット販売業者などに呼びかけて設立。獣医師の松田さんは06年から会長を務めている。
 松田さんは「最初からうまくいっていたわけではない」という。初めての顔合わせ。行政に不満を持つ団体、無理難題ばかりを言ってくると感じている行政側……。気まずい雰囲気が漂った。ただ、「動物が好きな気持ちは同じだった。時間をかけて本音で話せるようになった」。
  本音の会議は白熱する。長い時は4時間に及ぶこともあるが、そこから様々な取り組みが生まれる。センターに預けられた犬を引き取る条件として、避妊・去勢 手術に同意してもらわなければ譲渡しない「引き取り手を選ぶ」仕組み、犬の首輪に連絡先をつけてセンターに持ち込まれる数を減らす「迷子札運動」など。無 責任な考えを持つ飼い主には厳しい言葉をかけて意識の変化を促す。
 協議会メンバーのペットショップ「アリタ」の田中陽子店長は「安易なペットの販売はしない」という。だから店頭には客から要望があった犬しか置かない。流行の人気種を買おうとする客とはとことん話し合う。大型犬で大丈夫か、かわいいだけでおもちゃ扱いにならないか。
 客のニーズによってはセンターの譲渡会を紹介する。3年前、子犬を飼うには将来が心配という愛犬を亡くした老夫婦に「譲渡会には10歳くらいの犬がいる」と伝えた。老夫婦は今も譲渡会で引き取った犬と生活しているという。
 こうした活動は徐々に実を結ぶ。センターに持ち込まれる犬の数は減り、持ち主に返される数は増加。01年度に567匹だった犬の殺処分数は09年度は1匹になった。「立場を越えた協力ができたからこそ、ここまでできた」と松田さんは振り返る。
 これらの活動は熊本方式として評価され、09年度の日本動物大賞を受賞。そうした活動をまとめ出版した。今では毎年、全国の自治体など40〜50団体が視察に訪れるという。
 協議会の現在の大きな問題は猫。センターには対処できないほどの子猫が持ち込まれており、今年5月には初の譲渡会を開いた。まずは避妊・去勢手術と迷子札、室内飼いの徹底を呼びかけている。
 「無理だから放棄、かわいそうだから餌を。安易な行動が生む結果に責任を持てますか」(山本恭介)

この記事に関する関連書籍

殺処分ゼロの理由(わけ) 熊本方式と呼ばれて

著者:松田光太郎/ 出版社:熊日サービス開発/ 価格:¥1,050/ 発売時期: 2012年03月

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