2012年3月28日水曜日

asahi shohyo 書評

日本の精神医療史—明治から昭和初期まで [著]金川英雄

[評者]斎藤環(精神科医)  [掲載]2012年03月25日   [ジャンル]歴史 

表紙画像 著者:金川英雄  出版社:青弓社 価格:¥ 2,100

■隔離されてきた精神病者

 本書は、精神医学史に関する類書の中でも飛び抜けてユニークだ。扱う時代は明治から昭和初期とごく短く、官報などからの引用が多い文章はいささか読みづらい。しかし斬新すぎるその切り口で、最後まで一気に読ませる。
  特異な点は二つある。第一に、精神医療を隔離・監禁の歴史としてたどっている点。それゆえ感染症の隔離政策に関する記述も多い。第二に、本書の約半分が朝 鮮半島における西洋医学導入の歴史に割かれている点。とりわけ韓国の精神医療史のこれほど詳しい紹介は、私が知る限り本書が初めてだ。
 著者はまず、わが国の精神医学の礎を築いた東京帝国大学神経病学講座の教授・呉秀三と樫田五郎の著書『精神病者私宅監置ノ実況及ビ其(その)統計的観察』(1918年)を詳しく紹介する。
  この本に記された、日本の精神障害者が「此(この)病ヲ受ケタルノ不幸ノ外ニ、此邦ニ生マレタルノ不幸」を二重に被っている、という一文はよく知られてい る。これは精神障害者の「私宅監置」(「座敷牢」など)に対する告発だった。当時、精神障害者の処遇は警察の管轄だったのだ。
 呉は日本のみならずアジア全体の精神医療の向上を考えており、朝鮮半島の医療の近代化にも深く関わった。ただしそこには、西洋諸国から流入した「宣教医師」らの活躍も大いにあずかっていた。
 セブランス医学校を設立したオリバー・エビスン、精神科を専門とする宣教医師マクラーレン、韓国での医学教育に尽力した沈浩燮(シムホソプ)や李重テツ(イジュンチョル)といった、知られざる偉人たちが活躍する第4章は、本書最大の読みどころである。
 呉の悲願だった精神科病院の建設は、戦後大いに進んだ。座敷牢は消えたかわりに、精神科病床数は約35万床と先進諸国中でも際だって多い現状がある。「此邦ニ生マレタルノ不幸」は、いまだ過去形ではない。
    ◇
 青弓社・2100円/かねかわ・ひでお 東京武蔵野病院外来部長、了徳寺大学兼任講師。『精神病院の社会史』

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