2012年11月23日
『ぼくらの昭和オカルト大百科—70年代オカルトブーム再考』初見健一(大空出版)
70年代です。
70年代は「オカルトの時代」でした。エロ・グロ・ハレンチ・インチキ・ヤラセの匂いに満ちた時代の空気のなかで、さまざまな 「不思議」が次から次へと現われては消えていきました。その多くは文字どおりの「子どもだまし」でしたが、どれもが夏祭りの縁日のアセチレンランプのよう に、ギラギラと妖しく魅力的に輝いて見えました。
70年代キッズでなくても、漫画『ちびまる子ちゃん』を 読んだことがある人なら、その空気を感じとることができるはずです。「ノストラダムスの大予言」が怖くて眠れなくなったり、毛布にくるまって心霊番組を見 たり、丸尾君とツチノコ探しをしたり、まる子は高い頻度でオカルトに振り回されていました。「オカルトブーム」どっぷりでした。
大ヒット漫画『20世紀少年』に もオカルトトピックにまみれた70年代が描かれています。主人公ケンヂがつくる「よげんのしょ」は明らかにノストラダムスに影響されていますし、新興宗教 の教祖となった「ともだち」がスプーン曲げを披露するシーンも印象的です。「さまざまな『不思議』が次から次に現われては消えていく」…この漫画の主役 は、そんな70年代の空気そのものだといっても過言ではありません。
本書『ぼくらの昭和オカルト大百科−70年代オカルトブーム再考』は、この「オカルトな気分」が漂い続けた「イカレた時代」70年代にざっくりメスを入れ、なぜブームが起こったのか、ブームはどこへ行ったのかを徹底的に再考しようというわりとまじめな本です。その著者が『昭和ちびっこ未来画報−ぼくらの21世紀』の初見健一氏なのですから、これはもう読むしかありません。
では、70年代において、この「イカレた時代」がいつはじまったのか? これはほぼ正確に特定できる。
1973年。
この年、その後の約10年間にわたって定番となるオカルトな大ネタたちが、なぜかまるで歩調を合わせるかのように群れをなして日本を急襲し、僕らの好奇心をワシづかみにしてしまったのだ。
初見氏が「オカルト元年」と呼ぶ1973年。冒頭にずらりと並べたトピックのほぼ全てが、日本の少年少女の上に大量投下されます。「本当の『恐怖 の大王』はこの年に空から舞い降りてきたのかもしれない」と、初見氏がふざけ半分に書いているフレーズが冗談に思えないほどの投下量。それらはまたたく間 に日本全土の70年代キッズを虜にしていくのです。
私が育った80年代、オカルトブームはほぼ終息を迎えていました。しかしその余波はまだあちこちにちぎれたクラゲの足のように漂っていました。私 の妹はノストラダムスの大予言を知って「こわい」と泣いていましたし、テレビにはひっきりなしに霊能力者や超能力者が出ていました。遠足があるたびに心霊 写真を探すのはもはや恒例行事のようなもので、人面犬が公園に出たという噂も飛び交っていました。
オカルトには魔力がありました。あの時代に漂っていたそこはかとない不安、暗い時代へ一気に転落していく予感のようなものを、一時的に忘れさせて くれるドギツくてアヤシイ癒しの効力を持っていました。今でも「1999年、7の月」というセンテンスを読むだけで血中アドレナリンが体内を駆け巡ってし まうくらいに。1999年に何も起こらなかったということを知っている未来人なのにも関わらず、です。
そして、楽しげな「超・消費生活」が一気に崩壊したころ、僕らはかつて『デビルマン』などで読んだ「ハルマゲドン」を目の当たりにします。同世代の多くの人が、すっかり忘れていた「オカルトの時代」を思い出し、不思議な胸騒ぎを覚えたはずです。
それ以来、僕らを育てた70年代オカルト文化はサブカルチャーの暗部に押し込められて、僕ら自身もなかば「なかったこと」にしてきたような気がします。
初見氏はそう綴ってこの本を締めくくっています。「なかったこと」になったオカルト文化。さみしいですね。でも、安心してください。『ぼくらの昭 和オカルト大百科−70年代オカルトブーム再考』。この本を読めばたちどころにあの頃の自分に戻れるはずです。友だちから借りたいかがわしい装丁の本を大 事に胸に抱え、家に帰ってページをめくる時の痺れるようなあの快感。あなたはいつでもあの日の自分に戻ることができるのです。70年代キッズもそうでない キッズも。オカルト好きは必読の一冊です。再考しましょう、オカルトブーム。とっても面白い本です。
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