2012年11月15日木曜日

asahi shohyo 書評

督促OL 修行日記 [著]榎本まみ

[文]速水健朗(フリーライター)  [掲載]2012年11月11日

表紙画像 著者:榎本まみ  出版社:文藝春秋 価格:¥ 1,208

■過酷な職場のサバイバル術

 この世には、誰にも感謝されない仕事がたくさんある。本書の著者は、感謝どころか日常的に罵声を浴びせられるコールセンターで働くOL。
  コールセンターもいろいろだが、著者が働くのはカード会社の督促を行う部署である。元々人間関係がうまくないと自認する著者だが、海千山千の多重債務者ら との激烈なやりとりで傷つきながら、債権回収の仕事で成長する。仕事は過酷でも、語り口はユーモアに溢(あふ)れている。
 本書に描かれたコール センターは、まるで現代社会の最前線のようだ。「多重債務者」「クレーマー」「感情労働」……そんな現代版「あゝ野麦峠」として本書は読まれているのだろ う。他人の職場の過酷さを、「うちの会社はまだまし」とやじ馬的に読むのは楽しい。だが、本書はそこだけに留(とど)まらない。
 著者は過酷な職場に立ち向かう武器を見つけ、一人前に成長していく。そんなサバイバルの姿勢、過酷な仕事を楽しむ術といった部分も読みどころだ。
 著者が身につける武器とは交渉術。電話での債権回収では、どう言葉を操るかが鍵を握る。
  著者が身につけたテクニックのひとつが、相手に怒られる前に謝るというもの。支払いの催促の前に、「朝早い時間にお電話をして申し訳ございません」とひと こと付けることで、相手は怒りにくくなるという。また、厳しい口調で催促の文句をたたみかけても、電話を切る間際に優しい言葉を加えることで、回収率は アップするという。
 アイデアや工夫で過酷な仕事を楽しみ、成果も出す。過酷な労働環境で生きる人にとって、この手法はヒントになるだろう。また、ここに挙げたのは借金の督促のためのシビアな技術でもあるが、日常生活で恋人などを操るためにも悪用、いや応用できそうだ。お試しあれ。
    ◇
文芸春秋、1208円=7刷5万部

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著者:榎本まみ/ 出版社:文藝春秋/ 価格:¥1,208/ 発売時期: 2012年09月

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