2012年11月11日日曜日

asahi shohyo 書評

里山のきのこ [著]本田尚子

[文]北澤憲昭(美術評論家)  [掲載]2012年11月04日

アイタケ。色はさわやかな緑 拡大画像を見る
アイタケ。色はさわやかな緑

 そのむかし、広島市の中心部に丹下健三がデザインした前方後円墳のようなかたちの児童図書館があった。円にあたる部分が逆シェル構造になってい て、上へ向けて開いていた。木陰の読書をイメージしたデザインだということだが、あれは、きのこに見立てるのがふさわしいかたちだったと思う。その下にい ると、自分が、不思議の国の住人になったような気がしたものだ。
 そんな建物が戦後まもなく爆心地近くに建ったことは意外だが、だいたい、きのこ というやつは、思いもかけないところに、ひょっこり生えているものだ。その姿は、異星人のようなおもむきで、ほっくりした身にさまざまな色彩をまとってい る。どこかユーモラスで、奇妙でもある。きのこの研究でも知られるジョン・ケージが、エリック・サティの風変わりな音楽を、きのこにたとえたのもうなずけ るというものだ。
 そんなきのこのあれこれを、すてきなイラストにした本書は、秋の夜長の慰めとしてもってこいだ。里山というロケーションも悪くない。こころやすらぐ。
  著者は、国立科学博物館主催の植物画コンクールに10回も入選を果たしたボタニカルアートの名手で、2004年には文部科学大臣賞を受けている。この本 は、だから、たのしいばかりの一冊ではない。うつくしいきのこに、食べておいしいものがあるように、本書は、きのこを見分ける手引としても役に立つ。
 たくみに線を生かしたイラストは、写真よりも、ずっとたくさん真を伝えているかに見える。
    ◇
幻冬舎ルネッサンス・1890円

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