2011年8月10日水曜日

asahi shohyo 書評

現代文明論講義―ニヒリズムをめぐる京大生との対話 [著]佐伯啓思

[評者]松永美穂(早稲田大学教授)  [掲載]2011年08月07日   [ジャンル]教育 人文 新書 

表紙画像著者:佐伯啓思  出版社:筑摩書房 価格:¥ 924


■整理巧みに白熱の臨場感

 副題が示すとおり、大学での講義が一冊にまとめられている。昨年評判になった「ハーバード白熱教室」にヒントを得た、対話形式での授業。学生の意見に教師が入れる突っ込みも面白く、交通整理も巧み。自分もその場にいるような気持ちで読み進むことができた。
 現代社会を覆うニヒリズムを考察する授業だが、「なぜ人を殺してはいけないのか」「沈みゆくボートで誰が犠牲になるべきか」という普遍的な問いかけから、話題はやがて民主党の政策や尖閣諸島問題に移っていき、タイトルから想像する以上に現代日本をめぐるアクチュアルな議論が展開される。民主主義に基づく政治制度や憲法の平和主義について、その賛否を学生に問い、答えの分布が示されている点が興味深い。少数派の意見も丁寧にすくい上げられている。最終講で扱われるニヒリズムの克服の可能性については、やや不完全燃焼感が残り、「補講」を期待したいところだ。
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 ちくま新書・924円




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