2010年11月10日水曜日

asahi shohyo 書評

移行期的混乱 経済成長神話の終わり 平川克美さん

[掲載]2010年10月31日

  • [文]浜田奈美 [写真]郭充

写真:平川克美さん(60)拡大平川克美さん(60)

■わたしたちの「現在」とは何か

 『経済成長という病』を書いた後、経済成長待望論者たちから「経済成長は必須である」という意見が寄せられたという。「もちろん経済成長は望ましいこと。けれども今この国に起こっている史上初の事態を直視したら、経済成長すべし、なんて言えませんよ」

 そう、日本はいま初めての事態に直面している。1億2770万人台をピークに人口が減少し始め、50年後には9千万人を割り込 むとの予測もある。果たしてこれは何を意味するものかと、穴が開くほど数字を眺めることから本著は始まった。ビジネス原理論3部作の完結編となるはずが、 主題は大きく反れ、気づけば「わたしたちの『現在』とは何か」を問うていた。

 総人口や出生率、経済成長率の推移などのデータと、1世紀という時間軸の歴史を重ね合わせ、日本の資本主義、そして民主主義が 発展する過程を丹念にたどる。すると経済成長を支えた日本人特有の職業倫理や「家族」の変化、カネに対する価値観の変容が浮かび上がった。エマニュエル・ トッドの視点も借りつつ、現状は歴史の必然であり、「移行期的混乱」だと命名。こう指摘した。「成長戦略がないことではない、成長しなくてもやっていける ための戦略がないことが問題なのだ」

 『日本辺境論』の内田樹氏とは小学校以来の盟友。ともに1950年に生まれ、日本が変化を遂げる過程を生きてきた。零細企業を 経営する父を見て育ち、会社を経営する身となって以後は大小様々な危機にもさらされた。最近、父の介護を担い、家事をこなすことの魅力も知った。そうした 「生身」の視点も、本書の重要な通底音だ。

 結局、我々になすすべはないのだろうか。「問題を上手に先送りして時を待つことです。いずれは人口減少が事態を変え、多くの問題が片づくでしょう。物事を上手に先送りすることも、大切な解決策の一つなのですよ」

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移行期的混乱—経済成長神話の終わり

著者:平川 克美

出版社:筑摩書房   価格:¥ 1,680

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経済成長という病 (講談社現代新書)

著者:平川 克美

出版社:講談社   価格:¥ 777

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日本辺境論 (新潮新書)

著者:内田 樹

出版社:新潮社   価格:¥ 777

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