天空のビバンドム　[作]ニコラ・ド・クレシー

[評者]ササキバラ・ゴウ（まんが編集者）

[掲載]2010年11月14日

■想像力を刺激する仏の傑作

　フランスから強烈な印象の作品がやってきた。日本では海外作品は話題になることが少ないが、近年はバンド・デシネと呼ばれるフランスの物語まんがやアメリカのコミックスの傑作の翻訳出版が相次ぎ、ようやくそのおもしろさが浸透しつつある。その中でもひときわ異彩を放ち、注目を集めているのが本作だ。

　物語の舞台は、ニューヨークに似た摩天楼の並ぶレトロな都市。主人公のアザラシを人間に仕立てて偶像化しようとする「教育者」たちと、対抗する「悪魔」たちの抗争を描く、不思議な読み味の物語だ。しかも、その物語の語り手の地位をめぐって作中で抗争も繰り広げられ、錯綜（さくそう）しながら展開していく。さまざまな画法を凝らしたフルカラーの一コマ一コマは、それだけで絵画のようにじっくり味わえるおもしろさがあり、読む者の想像力を刺激してやまない。絵が物語をはらみ、物語は絵を従えようとし、その両者もまた拮抗（きっこう）しながら、戯れのような自由さで作品が展開し、読者を魅了する。

　本書と前後して、同じ著者の『氷河期』（小学館集英社プロダクション）や、フランスのパスカル・ラバテ『イビクス』（国書刊行会）なども刊行され、バンド・デシネのミニブームが訪れたかのようだ。どの作品も日本とは表現が異なり、とまどうかもしれないが、速読で話の筋を追うのではなく、時間をかけてじっくり付き合いたい。きっとそこに新しい読書の楽しみが開けてくるはずだ。

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　原正人訳、「ユーロマンガ」連載