2010年11月10日水曜日

asahi shohyo 書評

グレン・グールドは語る [著]グレン・グールド、ジョナサン・コット

[掲載]週刊朝日2010年11月12日号

  • [評者]温水ゆかり

■天才グールドはおたくでなかった

 80年代、ニューアカ青年の身嗜みだったグレン・グールド(1932〜82年 カナダ人)。ニューアカの威光失せても、グールドは不滅だ。

 真夏も手袋をする超冷え性、手首がピアノの鍵盤の下に来る超低座位、演奏中の鼻歌。演奏の1回性を否定し、32歳以降は録音の みで音楽活動した。が、おたくでなかったことは41歳当時の声を聴く本書でよく分かる。別人格での音楽評論(ビートルズをけなしバーブラ・ストライザンド を称揚)、モーツァルト嫌いを公言(初期ソナタは大好き)、元隣人マクルーハンを"議論のできない相手"と揶揄する。初出は当時勢いのあったインタビュー 誌、ローリング・ストーン誌。どの話題もシャープかつユーモラスだ。

 グールドは文学や映画、ラジオを愛した。「スローターハウス5」の映画音楽を担当、晩年愛読した漱石の『草枕』を自ら読む朗読 番組も制作している。その時使った山口五郎の尺八演奏もグールドのバッハも(ついでに「魔笛」も)ボイジャーに搭載され、未知との遭遇を期して今も宇宙を 航行中だ。私の妄想では地球外知的生命体は左利きで気鬱で不眠症なのだが、グールドがそうだった。きっと気に入ってくれると思う。

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 宮澤淳一訳

表紙画像

グレン・グールドは語る (ちくま学芸文庫)

著者:グレン・グールド

出版社:筑摩書房   価格:¥ 1,155

表紙画像

草枕 (新潮文庫)

著者:夏目 漱石

出版社:新潮社   価格:¥ 420

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