2011年4月28日木曜日

asahi shohyo 書評

死という鏡―この30年の日本文芸を読む [著]三輪太郎

[評者]温水ゆかり

[掲載]週刊朝日2011年4月29日号

表紙画像著者:三輪 太郎  出版社:講談社 価格:¥ 660


■歴史感覚がいい いきなり登場の評論家

 文芸評論なのに文庫初出、コラム形式で「ですます」調なのも読みやすい。

 著者(62年生まれ)は冒頭でこう書く。敗戦後、死はおぞましいものとして闇に追いやられた。戦後世代とは、有史以来最も死か ら遠ざけられた世代ではないか。が、70年代末、戦後生まれの作家達が始動すると、意外にもその作品は死にまみれていた。死が生の鏡として機能していた、 と。“洋服”を着た伝統の「無常」。この視座からこの30年の文学作品を読み解こうという試みである。

 取り上げる作家は「本質はとても陰惨」な村上春樹から、村上龍、小川洋子、宮部みゆき、町田康、19歳の書き手の中に「二葉亭 四迷が隠れていた」綿矢りさまで42人、計58作品。『センセイの鞄』(川上弘美)でセンセイと月子が惹かれ合う理由など卓見も多いが、先を急ぎます。

 納得のテーマ(思い出されよ。よしもとばなな登場の時、死を扱ったことで漫画チックという評があったことを)、作品の選択眼も いいが、何より著者の歴史感覚がいい。炭坑のカナリアとしての作家達、そしてそれを嗅ぎ当てる著者の言語センス。いきなり登場した観のあるこの才能、体温 のある文芸評論の登場だ。

表紙画像

センセイの鞄 (文春文庫)

著者:川上 弘美

出版社:文藝春秋   価格:¥ 560

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