書店員に聞く 北アフリカを理解する
変わるイスラーム [著]レザー・アスラン
[掲載]2011年4月2日朝刊be
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北アフリカで「民衆革命」が広がっている。チュニジア、エジプトの独裁政権が倒れ、リビアなどに波及した。どんな地域なのか、なぜ暴動が起きたのか。それを知るのに役立つ本を紹介したい。(伊藤千尋)
■八重洲ブックセンター八重洲本店・野口絵里さんに聞く
〈1〉変わるイスラーム [著]レザー・アスラン
〈2〉イスラム世界おもしろ見聞録 [著]宮田律
〈3〉エジプトのききめ。 [著]ムラマツエリコ他
▽記者のお薦め
〈4〉マグレブ紀行 [著]川田順造
革命の震源地チュニジアを私が取材したのは、今から20年前の1991年だ。地中海に面して、白壁にコバルトブルーの窓や扉が 映える家々が並んでいた。「世界最古の喫茶店」と言われる店に入ると、数人の男が床に置いたガラス瓶から水たばこを吸っていた。私は絨毯(じゅうたん)に 座って名物のミントティーを飲んだ。
欧州を古代ローマ帝国が支配した時代、ここには通商国家カルタゴが栄えた。ローマとの戦争で滅んだあと欧州の文化が入った。イタリアに近く、今も北アフリカでは近代化が進んだ地域だ。それだけに民主主義を求める意識も強かったのだろう。
私が訪れた当時は、今回崩壊したベンアリ政権がクーデターで成立して4年後だ。首都の街中は警官だらけだった。反政府の動きを力で封じようとしたのだ。それが20年以上も続いた。
独裁政権は外国からの借金を返そうと200以上の国営企業を売った。このため多くの公務員が失業し、昨年末には働き盛りの男性の約40%が失業者だった。民主主義への渇望と、食べられない怒りが爆発したのだ。他の国も同じような状況だ。
野口さんがまず挙げたのが(1)『変わるイスラーム』だ。イランに生まれ米国の大学で教える学者が、この地域に共通するイスラ ム教の源流と変遷を描いた。「イスラム世界にとっての『民主化』と、イスラム教の中で何が起きているのかを正確に把握する」(野口さん)ために役立つ。た だ、学者の作だけに記述が難しいのが難点だ。
これに対して(2)『イスラム世界おもしろ見聞録』は、現地を渡り歩いた日本の学者が軽快な口調で語る。「過剰なまでの警察力がなければチュニジアは容易に原理主義国家に変貌(へんぼう)する」という現地の知識人の言葉を引いている。
さらに易しい言葉で紹介するのが(3)『エジプトのききめ。』だ。女性2人がエジプトを旅して出会った人々や風景を、豊富なイ ラストと写真で伝える。「こうも不可解なものか」という異文化体験が、最初から最後までびっしりだ。「観光だけでない細かい観察が面白い」と野口さん。
私が推す(4)『マグレブ紀行』は、文化人類学の世界で古典とされる名著だ。マグレブとはアラビア語で「日の沈む国」を意味 し、チュニジアなど北アフリカ西部の諸国を指す。「極東」の日本から「極西」のこの地を訪ねた著者は、「なしくずしの亀裂と反乱の中で、人類は新しい共同 体を模索しつづけるだろう」と述べる。それは「ひずみのはじまり」だ、とも。今回の動きを示唆する言葉だ。
◇
〈見るなら〉アラビアのロレンス
この世で砂漠を楽しめるのはベドウィン(遊牧民)と神だけだという。ロレンスは、その炎熱におおわれた砂漠を支配する酷薄な神の意志にことごとく難癖をつけ、あらがおうとした男だった。
第1次世界大戦のさなか、エジプトにいたアラブ通のイギリス陸軍将校、ロレンスは特殊任務を命じられた。敵国ドイツと結託しているオスマン帝国に反旗をひるがえしたアラブ人の独立闘争を手助けすることである。
「神の意志などない」と宣言して、砂漠を畏怖(いふ)するベドウィンを率いて帝国の拠点を攻め落としたロレンスは勇者となる。彼の戦いの大義は、次第にアラブの聖戦と切り離せなくなるのだが、任務の真意は、あくまでも大戦後の英仏のアラブ支配の地ならしだった。
アラブ解放の勝利がもたらしたものは、あまりに理不尽な失意にほかならなかった。(龍)
- イスラム世界おもしろ見聞録
著者:宮田 律
出版社:朝日新聞出版 価格:¥ 1,365
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- マグレブ紀行 (中公新書)
著者:川田 順造
出版社:中央公論新社 価格:¥ 840
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- アラビアのロレンス
発売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
価格:¥ 1,480
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