「絵のある」岩波文庫への招待 [著]坂崎重盛
[評者]田中貴子(甲南大学教授・日本文学)
[掲載]2011年4月10日
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■すました顔の奥「お宝」眠ってた
こりゃあ楽しい本だ。でも、ちょっと悔しい。岩波文庫には挿絵が入っているものが意外と多いことに、実は私も注目していたのである。私は専門の関係で「黄 帯」、つまり日本の古典文学の文庫を中心に集めていたのだが、やや小さめの活字の間に、原本にあった挿絵が惜しげもなく転載されているのに少々驚いたこと があったからだ。『江戸怪談集』3冊や『百人一首一夕話』上下などは、挿絵への興味で読んだようなものである。ハンディな文庫本にこれだけ「絵がある」と いうのは本当に驚きだ。
著者は、いつしか「絵のある」岩波文庫の魅力にとりつかれ、とにかく絵が入っていれば収集し続けた。その成果の一端が本書である。「お堅い」イメージがある岩波文庫だが、挿絵に特化することにより新たな楽しみ方を発見した功は大きいだろう。
たとえば、『絵のない絵本』に挿絵があるなんて、ちょっと考えつかないことである。
簡単に「挿絵」と言ったが、岩波文庫の場合、元本についていた挿絵をそのまま、あるいは取捨選択して収録したものと、編者が挿 絵にふさわしい絵を選んで載せている場合があるらしい。前者だと、本文と挿絵とがいかにマッチしているかが気になるが、挿絵の効果で本文がより豊かに彩ら れることもあり、挿絵の影響力の大きさが再認識される。後者では、編者が挿絵を選ぶセンスと、編者の本文に対する解釈の様子がよくわかり、これまた興味深 い。
何より、「絵のある」文庫への愛が満ち満ちた著者の解説部分がよい。軽薄ではない軽快さ、対象への迫り方のユニークさが特徴的である。こんな「お宝」が、あのすました顔の書店の棚に眠っていたなんて!
今度の休日には、「絵のある」岩波文庫を1冊持って、桜の下なんぞで一日すごしたい、と思ってしまった。
◇
さかざき・しげもり 42年生まれ。横浜市勤務を経て編集者、随文家。『東京本遊覧記』など。
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著者:坂崎重盛
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