2011年4月28日木曜日

asahi shohyo 書評

思想の普遍性に大きな意味 山下裕二さんが選ぶ本

[文]山下裕二(美術史家)

[掲載]2011年4月24日

写真:岡本太郎の代表作・太陽の塔拡大岡本太郎の代表作・太陽の塔

表紙画像著者:岡本 太郎  出版社:筑摩書房 価格:¥ 1,680


■岡本太郎生誕100年

 今年は、岡本太郎(1911〜96)生誕100年。東京国立近代美術館の「岡本太郎展」(5月8日まで)、太郎の誕生日である2月26日から放送されたNHKの連続ドラマ「TAROの塔」をはじめとして、太郎100歳を寿(ことほ)ぐ企画が目白押しだ。

 太陽の塔を通じて漠然と太郎の存在を知ってはいるが、なぜいま岡本太郎なんだろう、と訝(いぶか)しく思っている中高年の方、 またリアルタイムではまったく知らないが、ここ10年ほどの「太郎ブーム」を通じて新たに興味を持った若い方も多いだろう。そんな人たちが、岡本太郎の存 在をより深く理解するために繙(ひもと)いてほしい本をいくつか紹介したい。

 まずは、太郎自身の著作。私が彼の存在に深入りしはじめた96年当時、つまり太郎が没した時点ではそのほとんどすべてが絶版 だったが、さまざまなかたちで復刊が果たされてきた。その中でも決定版といえるのが、この2月から刊行が開始された『岡本太郎の宇宙』全5巻(ちくま学芸 文庫)である。

 いまの時点で3冊が刊行されているが、もっとも重要な著作である『今日の芸術』(54年)、『日本の伝統』(56年)はこの文 庫版全集で読むことができる。私は編者の一人であり、詳細な解説も付したので、ぜひ参照していただきたい。しかし、文庫本という制約があるため、初版に収 められた図版を収録することはできなかった。いまどき、ネット書店や図書館で初版を入手することも比較的容易だから、『日本の伝統』の場合はとくに、太郎 自身が撮った写真も収められている初版をぜひ参照していただきたい。

■写真にも重要性

 ちくま学芸文庫版に収録予定のうち、いまだ刊行されていないが他の文庫で読めるもっとも重要な著作は『沖縄文化論――忘れられ た日本』だろう。初版は61年。その前年、「中央公論」誌上に連載され、三島由紀夫、川端康成らに絶賛された鮮烈な紀行文である。なおこの時期、太郎が残 した著作では、写真がきわめて重要な役割を担っている。実は、太郎の写真に注目が集まったのは没後のことだが、それをある程度集積した写真集として『岡本 太郎が撮った「日本」』(毎日新聞社、1470円)をあげておこう。

 太郎100歳の誕生日に合わせて、さまざまな雑誌が同時多発的に岡本太郎特集を組んだ。「芸術新潮」3月号の「岡本太郎を知る ための100のQ&A」、「別冊太陽」の「岡本太郎新世紀」、「カーサ・ブルータス」4月号の「あなたの知らない岡本太郎」など。いずれも太郎入門のため に、懇切な誌面をつくっている。豊富なヴィジュアルが盛り込まれたこれらの特集でまずはイメージをつかんで、それから太郎の思想の核心に踏み込んでほしい と思う。そしてさらに深入りしたい方には、かなり高価だが斬新な編集による『岡本太郎爆発大全』を手にとられることをお薦めする。

■「法隆寺になれ」

 大震災後のいまこそ、岡本太郎の思想がもつ普遍性は、より大きな意味をもつと思う。彼は、49年に法隆寺金堂壁画が焼失した数 年後、「今さら焼けてしまったことを嘆いたり、それをみんなが嘆かないってことをまた嘆いたりするよりも、もっと緊急で、本質的な問題があるはずです。自 分が法隆寺になればよいのです」と言い放った。このドキリとする言葉の意味を、いまこそ多くの人に噛(か)みしめてほしいと思う。

    ◇

 やました・ゆうじ 美術史家 58年生まれ。著書に『岡本太郎宣言』など。

表紙画像

沖縄文化論―忘れられた日本 (中公文庫)

著者:岡本 太郎

出版社:中央公論社   価格:¥ 720

表紙画像

岡本太郎 爆発大全

著者:岡本 太郎

出版社:河出書房新社   価格:¥ 25,200

表紙画像

日本の伝統 (知恵の森文庫)

著者:岡本 太郎

出版社:光文社   価格:¥ 660

表紙画像

岡本太郎宣言

著者:山下 裕二

出版社:平凡社   価格:¥ 1,575

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