2012年10月26日金曜日

asahi shohyo 書評

土偶・コスモス [編]MIHO MUSEUM

[文]保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)  [掲載]2012年10月21日

縄文の女神(紀元前3000年ごろ) 山形県立博物館蔵、撮影・藤森武 拡大画像を見る
縄文の女神(紀元前3000年ごろ) 山形県立博物館蔵、撮影・藤森武

表紙画像 著者:Miho Museum  出版社:羽鳥書店 価格:¥ 3,150

 今私たちが見ている土偶の多くは、当時、意図的に壊されたものなのだそうだ。とりわけ縄文中期以降、紀元前3300年以降の東日本でつくられた土 偶の多くはそうなのだという。時には壊したい部分を予(あらかじ)め壊れやすくつくることさえあったというのだからすごい。明確な目的意識に基づき土偶は つくられていたということになる。
 それにしても「縄文の女神」のなんと美しいこと。山形県舟形町で出土し、今年9月に国宝に指定されたばかりのそれは、8頭身という、日本人、いや縄文人離れしたプロポーションをしており、「女神」の名にふさわしい。だが、ちょっと気になることがある。
  現在国宝に指定されている土偶は「縄文のビーナス」「中空土偶」「合掌土偶」そして「縄文の女神」の4点のみである。本書で見ていて気づいたのは、頭の飾 りと腕とが失われている「中空土偶」をのぞき、どれもほぼ完全な形を保っていることだ。その事実から、つい、土偶が国宝に指定される際には、希少性や造形 の芸術性に加えて、完形であることが重視されているのではないかと思ってしまう。壊されるためにつくられることすらあったというのに……。
 土偶 を愛(め)でることの難しさがここにある。個人的には、展示室で実物を見るならば国宝土偶はやはり面白いが(実は本書は現在滋賀県で開催中の展覧会のカタ ログでもある)、秋の夜長に本を開きながら、縄文という、文字がなかった時代に思いを馳(は)せるのであれば、ちょっと平凡にすら見える土偶のほうが、 人々の思いが伝わってくる気がして好きである。
    ◇
羽鳥書店・3150円

この記事に関する関連書籍

土偶・コスモス

著者:Miho Museum/ 出版社:羽鳥書店/ 価格:¥3,150/ 発売時期: 2012年09月

☆☆☆☆☆ マイ本棚登録(0 レビュー(0 書評・記事 (1

0 件のコメント: