土偶・コスモス [編]MIHO MUSEUM
[文]保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員) [掲載]2012年10月21日
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今私たちが見ている土偶の多くは、当時、意図的に壊されたものなのだそうだ。とりわけ縄文中期以降、紀元前3300年以降の東日本でつくられた土 偶の多くはそうなのだという。時には壊したい部分を予(あらかじ)め壊れやすくつくることさえあったというのだからすごい。明確な目的意識に基づき土偶は つくられていたということになる。
それにしても「縄文の女神」のなんと美しいこと。山形県舟形町で出土し、今年9月に国宝に指定されたばかりのそれは、8頭身という、日本人、いや縄文人離れしたプロポーションをしており、「女神」の名にふさわしい。だが、ちょっと気になることがある。
現在国宝に指定されている土偶は「縄文のビーナス」「中空土偶」「合掌土偶」そして「縄文の女神」の4点のみである。本書で見ていて気づいたのは、頭の飾 りと腕とが失われている「中空土偶」をのぞき、どれもほぼ完全な形を保っていることだ。その事実から、つい、土偶が国宝に指定される際には、希少性や造形 の芸術性に加えて、完形であることが重視されているのではないかと思ってしまう。壊されるためにつくられることすらあったというのに……。
土偶 を愛(め)でることの難しさがここにある。個人的には、展示室で実物を見るならば国宝土偶はやはり面白いが(実は本書は現在滋賀県で開催中の展覧会のカタ ログでもある)、秋の夜長に本を開きながら、縄文という、文字がなかった時代に思いを馳(は)せるのであれば、ちょっと平凡にすら見える土偶のほうが、 人々の思いが伝わってくる気がして好きである。
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羽鳥書店・3150円
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著者:Miho Museum/ 出版社:羽鳥書店/ 価格:¥3,150/ 発売時期: 2012年09月
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