邪馬台国に魅せられて
[文]宮代栄一、木村尚貴 [掲載]2012年10月24日
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中国の歴史書「魏志倭人伝(ぎしわじんでん)」に記され、女王・卑弥呼(ひみこ)が支配したとされる邪馬台国。その所在地などを巡る「論争」が近年ひときわ過熱している。この論争、論者の大半がアマチュアの研究者というのが特徴だ。
■自説続々発表 多方面から謎に挑む
企業の展示会でにぎわう東京ビッグサイトの片隅で、歴史の専門誌記者らを集めた会見が開かれた。「在野のオオカミとして、虚心坦懐(きょしんたんかい)に やってきてたどりついた結論を報告する」。83歳の大宮真人(まひと)さんがそう切り出し、スクリーンに「宮崎県都城に邪馬台国が存在した!」という文字 が大映しされた。
大宮説によると、倭人伝に登場する各国の名は古代中国語の発音のまま九州各地の地名として残っており、魏使のたどったルートに沿って当てはめていくと、邪馬台国は都城市周辺になるという。
早稲田大卒業後、ドライブイン経営のかたわら約半世紀、古代中国語の音を研究してきたという大宮さん。「幻という形容詞がつく邪馬台国を呪縛から解放したかった。今後は現地を掘って確かめたい」
邪馬台国研究が現在のようなブームになったのは1960年代後半以降だ。在野の研究者で島原鉄道の役員だった宮崎康平さんの『まぼろしの邪馬台国』が出版され、メディアに取り上げられたのがきっかけだった。
その後、古代史好きのアマチュアが続々と所在地論争に参入。オーソドックスな畿内説・北部九州説に加え、四国説、山陰説、エジプト説などまでが世間をにぎわすことになる。
なぜ、人はこれほど邪馬台国にひかれるのだろう。
専門誌「季刊邪馬台国」の編集長を務める元産業能率大教授の安本美典さん(数理文献学)は「古代史上最大の謎の一つで、日本のルーツにも関係しているから」と語る。
「やればやるほど新しいことがわかり、知的好奇心が刺激される。インターネットの普及で、皆が専門的な情報を入手しやすくなったことも研究を後押ししている」
『邪馬台国と狗奴国(くなこく)と鉄』(彩流社)を2年前に出版した菊池秀夫さんの本業は会社員。9年前から歴史の勉強を始め、いまは魏志倭人伝に登場す る「狗奴国」を追いかける。在野の研究者が自説を発表する「邪馬台国研究大会」を昨夏、都内で開いた。来月には「全国邪馬台国連絡協議会」を立ち上げる予 定だ。「真実に近づいていく感じがたまらない」
邪馬台国には、とっつきやすい面もあるようだ。公表された研究は、魏志倭人伝の読解に始まり、遺物・遺跡、神話、地名、古代倭語(わご)とテーマも様々。考古学、歴史学、自然科学など多方面からのアプローチが可能で、間口が広い。
「トンデモ」と思われるとっぴな説もしばしば登場するが、関心を持つ人が多いため、内容が面白ければ出版されやすい。「アマチュア研究者から始めて大学教授になった人もいる」と安本さん。
明治大名誉教授の大塚初重さん(考古学)は「アマチュアの中には、大学の考古学の授業をはしごして聴講する人もいる。こんな現象は日本だけ」と話す。「邪 馬台国研究が盛んになったのは、日本が豊かになった時期と重なる。経済的な満足感を得た人々が、自分たちのみなもとの歴史に向き合おうとした結果なのでは ないでしょうか」
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