外村大「朝鮮人強制連行」が示す今に続く差別
[掲載]2012年10月02日
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植民地、そして戦争——歴史をめぐる対立が東アジアでまた熱を帯びている。先鋭的な政治問題となったテーマに、歴史学は有意義に"介入"できるの か。日本近現代史研究者の外村大(とのむらまさる)・東京大学准教授(46)が今春発表した『朝鮮人強制連行』(岩波新書)は、一つの可能性を示してい る。
1939〜45年に帝国日本の政策として進められた、朝鮮民衆に対する労務動員。戦争遂行のための施策で、動員された人の多くは内地日本の炭鉱に送られた。「強制性は無かった」という主張が一部にある中、外村は書名に「強制連行」を掲げた。
「研究者の基本に立ち返ろうと、約6年かけて関連史料を一から読み直してみました。結論として、政策全体として見て強制性があったのは明らかだった」
執筆のきっかけは、編集者からの依頼だった。
「正直、書きたいと思っているテーマではありませんでした。でも『強制連行』は名称が知られている割に、研究者が史料に基づいて実態をじっくり伝える本は少なかった。研究者の信用にかかわるまずい状況だと思い、引き受けました」
労務動員計画と関連の法律、法令……。基本史料を改めて網羅的に読んだ。朝鮮総督府など"現地"の実態も調べた。見えてきたのは、中央政府が国情を直視せ ずに実現不可能な計画を立て、その無理から生じるしわ寄せが現地の動員担当者や朝鮮民衆に押しつけられていく「構造」だった。
「政府内には実は、動員をスムーズに進めるにはある程度朝鮮人の意向に配慮せざるを得ない、という認識もあった。だが政策自体の無計画性がたたって、重大な人権侵害を避けられなかった」
行政や企業など「動員する」側の関係者が強制性を当時認識していた事実を示す史料も、著作では紹介した。家族と別れて過酷な炭鉱現場に行かされることを忌 避する住民が増えたため、朝鮮総督府は動員のために"連帯責任"まで利用していた。忌避した場合は家族や親類などから代わりの者を出さねばならない、とす る指示だ。
「植民地化で朝鮮人は当時『日本人』とされ、建前上は平等ということになっていた。だが実際には、多数派が忌避する劣悪な職場(炭鉱)を少数派の朝鮮人に担わせる構造があった。現在の『外国人労働者問題』にまで通じる日本の差別問題が、そこにある」
内地に定着してほしくないとの思惑から、朝鮮人への動員は2年間の有期制だった。立場の弱い者を都合よく使い捨てるその発想は、現代の"日本人"労働者問題をも想起させる。(塩倉裕)
この記事に関する関連書籍
著者:外村大/ 出版社:岩波書店/ 価格:¥861/ 発売時期: 2012年03月
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