マリーエンバートの悲歌 [著]マルティン・ヴァルザー
[評者]松永美穂(早稲田大学教授・ドイツ文学) [掲載]2012年10月21日 [ジャンル]文芸
■ゲーテ55歳差「最後の恋」
ドイツの文豪ゲーテが74歳のときに19歳の女性(ウルリー ケ・フォン・レヴェッツォー)に求婚したのは有名な話。自分の主君であるカール・アウグスト公に仲介の労をとってもらい、きわめてフォーマルに申し込んだ のに、先方からはうまくはぐらかされ、「これからもよいお友だちでいましょう」という雰囲気で別れざるを得なかった。本書は、体よくふられて悶々(もんも ん)とするゲーテの気持ちを、執筆当時すでに80歳を超えていたヴァルザーが、微に入り細に入り描いてみせた小説である。
地位と名声を手に入 れ、すでに孫もいる大作家ゲーテの片思い。この片思いから美しい詩の数々が生まれたと思えば、まあ、よかったんじゃないのといいたくもなる。ウルリーケが 一生結婚しなかったという話は、この本で初めて知った。いつも母親の監視下にあったウルリーケの本心は、どこにあったのだろうか。読了後、そっちの方が猛 烈に気になってきた。
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八木輝明訳、慶応大学出版会・3360円
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著者:マルティン・ヴァルザー、八木輝明/ 出版社:慶應義塾大学出版会/ 価格:¥3,360/ 発売時期: 2012年09月
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