「失敗」の歴史ひもとく松尾匡「新しい左翼入門」
[掲載]2012年10月02日
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社会をよくしたいと情熱に駆られたら、何に気をつけるべきか。経済学者の松尾匡(ただす)・立命館大教授(48)が近代日本の左翼運動史をまとめた『新しい左翼入門』(講談社現代新書)は独自の視点で、左翼の「失敗」の歴史をひもといていく。
本書に登場する思想家は幸徳秋水や大杉栄にはじまり、堺利彦や山川均ら戦前の代表的なマルクス主義者、丸山真男や竹内好ら。アナ・ボル抗争や日本資本主義論争など、年長者にはなじみの「対立」を読み解いた。
「残された著作を読み返すと違いはあまりない。アナーキズムかマルクス主義か、なんて激しい対立でしたけどね」。違いよりも「対立が先で、思想の違いをわざわざ見つけていると言った方が近い」と指摘する。
では、何が対立していたのか。注目したのは左翼が社会を変えようとするときに選ぶ、二つの路線だ。
一つは、掲げた理想に現実を照らし合わせ、世界を理想通りに変えることを目指す。もう一つは、抑圧された大衆の側に身を置き、「なにくそ」と立ち上がろう とする。いわば「上から目線と大衆コンニャロー路線」(松尾)。激烈な対立をする背景に、こうした世界観の違いがあるという。
そもそも、左翼の定義は何か。松尾は「世界を上下に切って下の味方をする人」で、かたや右翼は「内外に切って内側の味方の人」としている。
マルクス主義者を自任する本人の専門は数理マルクス経済学で社会運動の専門家ではない。「失敗」の歴史を書いた理由として、自分もかかわる現在のNPO活動での経験をあげる。
格差是正や人権、エコロジーなど、現代社会で「正しさ」を語る題目は事欠かない。「昔は、左翼運動の失敗を引きずった人が多かったが、そうじゃない若い人が増えている。それはいいことですが、同じ失敗をする必要はない」と話す。
貧困や疎外を克服し、労働者が自分の生活を自分で決める社会にする。素朴な善意から出発したはずが、かたや上から目線の押しつけに、かたや他集団を考慮しない集団エゴイズムに堕していく。マルクス主義の失敗と考えがちだが、違うという。
例えば、地球環境問題でもそう。「環境の保全のために、経済成長はいらないという話になると、貧困な生活を送る労働者にとって、抑圧になりえます。独善や抑圧に陥らないためのヒントを盛り込んだつもりです」(高久潤)
この記事に関する関連書籍
著者:松尾匡/ 出版社:講談社/ 価格:¥840/ 発売時期: 2012年07月
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