2012年04月30日
『書店ガール』碧野圭(PHP研究所)
そんな私にとって、今日ご紹介する「書店ガール」は、タイトルからして非常に魅力的な一冊です。書店ではたらく女性たちの物語。それだけでも面白 そうなのに、主人公が「若くて美人で新婚ほやほや書店員」と「アラフォー独身ベテラン書店員」だなんて。このふたりの属性を見てハラハラドキドキしない女 性がいるでしょうか。絶対になんらかの軋轢が起きるに決まっています!
物語は、北村亜紀(二十七歳)の結婚披露パーティのシーンから始まります。同じ職場の恋人を捨て、エリート編集者とスピード結婚を決めた「乗り換 えの早い」彼女。一方、彼女の花嫁姿を見つめているのは、恋人に捨てられたばかりの西岡理子(四十歳)。何もかもが対照的なふたりは、些細なことをきっか けに会場の控え室で大喧嘩してしまいます。その衝突は尾をひき、ふたりは職場でも対立を深めていくことになるのです。
私が面白いと思ったのは、ふたりの「違い」を際立たせる描写です。BL(ボーイズ・ラブ)小説が好きなアルバイト店員から積極的に意見を聞こうと する亜紀。一方、ベテラン書店員の理子は「あんまり思い込みの強い子には、自分の好きなものを担当させない方がいい」と彼女を別の売り場に配属させます。 若い層の顧客を獲得しようと新しい企画を提案する亜紀。しかし理子は「うちが老舗だからあえて足を運んでくださるお客様というのは、高年齢、高所得、どち らかといえば保守的な方々なのよ」と反対します。
何もかもが違うふたり。著者はその「違い」をくっきりと書き分けています。私がもっとも「えぐい」と思ったのはこのふたりが、それぞれの家に帰って食事をつくるシーンの描写です。
「西岡のオバサンのせいで、一日台無しよ」 亜紀は料理をしながらぼやいていた。伸光はキッチンと対面するカウンターテーブルに座ってビールを呑んでいる。テーブルにはサラミと作り置きしてあるピクルス、それに帰宅途中で買ったカマンベールを並べていた。
玄関左手の台所へ入る。コンロの上のアルミ鍋を覗く。朝作り置きしておいたじゃが芋と手羽肉の煮物が残っている。真夏は食べ物 がいたみやすいから、余ったら冷蔵庫に入れておいてくれって言ってるのに。理子は鍋に顔を近づけて匂いを嗅いだ。まだ大丈夫そうだ。父は鶏肉があまり好き ではない。ほとんで手をつけていない。でも手羽肉は安いから、家計的には助かる。父の好みばかり聞いてもいられない。(後略)
どうでしょう。これを読んだだけでも「わかりあえなそう」な空気が伝わってきませんか。だって、一方の夕食がサラミとピクルスとカマンベールで一 杯、からはじまるのに、もう一方は冷蔵庫に入れ忘れたじゃが芋と手羽肉の煮物ですよ? 仕事のやり方だけでなく、抱えている家庭事情もライフスタイルも違 うふたりの対立はどこまでいっても終わらなそうです。
しかし、このふたりが結束しなければならない事態がやってきます。「共通の敵」が現れるのです。物語の中盤から少しずつ忍びよってくる「敵」との戦い は、亜紀と理子を結びつけるだけではありません。職場の書店員たち、出版社、作家、読者・・・。本に関わるすべての人々を巻きこんで、クライマックスへと 昇りつめていきます。ふたりの「共通の敵」とは何なのか。それはぜひ、ご自分で読んで確かめてみてください。
書店に限らず、職場という場所には、色々な人がいるものです。それぞれに「正しい」と思うやり方が違う。それがリアルな職場です。「一丸となっ て」仕事に取り組むなんてこと、そうはありません。でも「違う」からこそ面白いのかもしれない。そこに、チームとして仕事をする醍醐味があるのかもしれな い。「書店ガール」はそんなことを感じさせてくれる小説でした。
そして、読み終わった私の感想はやっぱり「いつか書店で働きたいなあ」でした。アルバイトでいいんです。重労働だと聞いていますが、何歳までなら 雇ってもらえるのでしょうか。作家だってことは黙っていればわからないし、求人案内でも見てみようかな・・・。かなり真剣に考えてしまいました。
とにかく、本好きの方、書店好きの方におすすめの一冊です!
0 件のコメント:
コメントを投稿