ネットと愛国—在特会の「闇」を追いかけて [著]安田浩一
[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史) [掲載]2012年05月13日 [ジャンル]IT・コンピューター ノンフィクション・評伝
■過激さの背後にある承認欲求
在日コリアンに差別的なスローガンを浴びせかけ、過激な行動を繰り返す在特会(在日特権を許さない市民の会)。彼らがデモで叫ぶ罵声は、侮蔑の言葉で満ちている。安田はメンバーへの取材を繰り返し、その実像に迫る。
在特会の生みの親は、桜井誠。現在も会長として運動の先頭に立つ。しかし、その来歴や素顔は判然としない。安田は、彼の地元を取材し、その「地味」で「目立たない」青少年期を明らかにする。
無口で物静かな少年は、いかにして冗舌で攻撃的な「ネット右翼のカリスマ」になったのか。桜井は、ネット掲示板で韓国・北朝鮮を批判し、注目を集める。次第に一部で過激なスタイルが受けはじめると、激烈な口調が加速した。
学歴社会から弾(はじ)かれ、警備員や役所の非正規職員として働いてきた彼は、役所や教育機関に対して攻撃的だ。そして、在日コリアンの「特権」を誇張し、既得権益としてたたく。安田は、過激な行動の背後に、桜井自身の鬱屈(うっくつ)や承認欲求を見いだす。
「認められたい、見てほしい。そして喜ばれたい」。活動を動画サイトに投稿し、評判や閲覧者数をチェックするメンバーには、社会の中で「うまくいかない人たち」が多い。彼らは、不謹慎な言葉を吐き続けることで、アイデンティティーを確認する。
そんな彼らは、市民を触発する。昨年夏に起こった「フジテレビ抗議デモ」は「ごくごく一般の人々」が中心となった行動だった。その整然とした高揚の中に、安田は「怖さ」を感じる。
安田は在特会を他者化しない。彼らは私たちの社会の反映であり、その下には「広大な地下茎」が存在する。そして、それは現在の「橋下人気」にも繋(つな)がっているという。
私たちの苛立(いらだ)ちはどこへ向かっているのか。本書は、時代の気分と真正面から対峙(たいじ)すべきことを迫っている。
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講談社・1785円/やすだ・こういち 64年生まれ。著書に『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』など。
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