2011年9月5日月曜日

kinokuniya shohyo 書評

2011年08月31日

『理系白書—この国を静かに支える人たち』毎日新聞科学環境部(講談社文庫)

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「科学技術への信頼を取り戻すために」

 日本社会について、いったいどのような点を誇りと思うか、というアンケート調査の結果を眺めてみると、興味深い結果が見られる。政治や歴史と答える割合は低いが、経済はやや高く、そして科学技術の発展について誇りに思うという割合が目立っているのである。

 しかしながら、東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、この割合は残念ながら低下してしまうのではないだろうか。敗戦後の復興から高度経済成長 期、そして低成長期を経た今日に至るまで、この社会の根幹を科学技術の発展が支えてきたという信頼は、脆くも崩れ去ろうとしているのではないだろうか。


 私は専門の学者ではないものの、おそらくあの事故をめぐっては、政府や東京電力の対応に代表されるように、組織論的な不全として明らかにすべき問題点と、純粋に科学技術の問題点として明らかにすべき点とがあるように思われる。


 そして、後者の問題点について、長期的な視点から本腰を入れて取り組んでいこうとするならば、今改めて振り返るべきなのは、「若者の理系離れ」という現 象ではないだろうか。科学技術に支えられた社会を、改めて安定して営んでいくためにも、それを担う後進の育成は必須であろう。


 確かに「若者の科学技術離れの傾向」は、実はすでに問題視されてはいた。科学技術白書では1993年度版において始めて特集が組まれ、それ以降、シンポ ジウムが開かれたり、あるいはその問題点を扱った講義科目が放送大学でも設定されるなど、散発的にではあれ、この現象に対する対策は進められてきた。


 そして今こそ、信頼していたはずの科学技術が、未曾有の大事故を引き起こしてしまった今こそ、まさにこの現象に対する対策に、真剣かつ大規模に取り組まなければならないのではないかと思う。


 そのために大いに役立つのが、この『理系白書』という著作である。元々は、毎日新聞科学環境部による連載記事を元にして、2003年に講談社から単行本 として出版されたものだが、2006年には講談社文庫に採録され、また第一回科学ジャーナリスト大賞も受賞した著作である。


 2007年と2009年にそれぞれ『理系白書2』『理系白書3』といった続編が出されており、いずれも、質の高い取材力と確かな文章表現力に支えられて、安心して読み進めることのできる著作となっている。


 科学技術の未来を憂う全ての人に、とりわけ若い人々に、理系文系を問わず、読んでいただきたい著作である。



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