2013年11月7日木曜日

asahi shohyo 書評

この民主主義は本物か 時代錯誤の主権概念 國分功一郎

[文]高久潤  [掲載]2013年10月30日

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哲学者の國分功一郎さん

表紙画像 著者:國分功一郎  出版社:幻冬舎 価格:¥ 819

 哲学者の國分功一郎・高崎経済大准教授が、新著『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)を発表した。5月にあった東京都小平市に建設予定の都道を巡る 住民投票運動に関わり、その中で頭に浮かんだ問いが本の出発点にあるという。生活に関わるほとんどのことは自分たちでは決められないのに、なぜそんな政治 体制を民主主義と呼んでいるのか——。その意味を聞いた。
 住民運動は、小平市の都道建設計画の是非を巡るもの。計画を見直すべきか問う住民投票を求め、投票が行われたが、市が開票条件とした投票率50%以上にならず、開票されなかった。50年前につくられた計画だが、実施するか否かを決められるのは行政だけだ。
 「痛感したのが、生活にかかわる『政治』のほとんどは、行政が決めているということ。道路もそうだし、例えば、保育園のあり方などもそう。なのに、僕らは事実上の決定機関である行政には関われず、議会という立法府の議員を選ぶことに、ほぼ政治参加の機会を限られている」
 なぜなのか。哲学の歴史をさかのぼり、注目したのが「主権」という概念だ。國分准教授によれば、主権概念は16、17世紀につくられた。そもそもは君主が一定の領域内のルールをつくって、臣民を従わせるために確立された概念で、それがその後の民主主義にも継承された。
 「今の民主主義は国民主権という言葉で定義されるが、そこで言う主権とは、法律を作る権利のこと。だから政治参加が立法府への関わりに限定される。僕らは近代初期の政治哲学がつくった、決して十分とは言えない概念でなおも民主主義を語っている」
 民主主義とは多数決だという考えも、主権を立法(議会)として捉える誤りから生み出された「大きな偏見」という。
 では、どういう民主主義の語り方がよいのか。そのヒントがタイトルである「来るべき民主主義」という考えだ。仏の哲学者ジャック・デリダが打ち出したアイデアだという。
 「完全な民主主義がどんなものかは誰もわからない。でも、ある具体的な決定や制度変更について『これは民主的ではない』という実感を持つことはできる。デリダから学べるのは、こうした肌感覚を重視して民主主義を考えるべきだということ」
 立法(議会)を中心に民主主義を捉える概念から解き放たれ、政治の見方も変わるという。
  今の議会の実情は、「行政が出してくる案にお墨付きを与える役割にとどまっている」。議会改革も大切だが、政治においては、法律をつくるのと同じぐらい、 どう運用するかが重要となる。役所などが法律を運用する過程を絶えずチェックし、それに関わる。住民投票はそのための手段の一つと位置づけられる。
 「何かの機会にものを考え始め、それを人と話すところから政治が始まる。立法中心の民主主義観を変えていけば、議会の外で住民をどうサポートしてくれるかなど、議員の評価の仕方も変わっていく」

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