2011年3月31日木曜日

asahi shohyo 書評

再読 こんな時 こんな本

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書店員に聞く 本家アンドロイド本

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? [著]ディック

[掲載]2011年3月26日朝刊be

表紙画像著者:フィリップ・K・ディック  出版社:早川書房 価格:¥ 777


 スマートフォンの基本ソフトで近ごろおなじみの「アンドロイド」。忘れちゃいけない本当の意味は「人造人間」です。禁断の造物主たらんとする人類の野望は、作家の霊感もかき立ててきました。(保科龍朗)

■三省堂神保町本店・福澤いづみさんに聞く

〈1〉アンドロイドは電気羊の夢を見るか? [著]ディック

〈2〉縫製人間ヌイグルマー [著]大槻ケンヂ

〈3〉心はプログラムできるか [著]有田隆也

 ▽記者のお薦め

〈4〉未来のイヴ [著]リラダン

 人の知能と肉体を模造する科学技術が見境なく進化すれば、やがて、まったく生身の人間と見分けのつかないアンドロイドを出現させるだろう。

 究極の完成度を実現しているがゆえに、そのアンドロイドに芽生えた自意識は、我が身を人工の被造物とは思わない。造り主の側だと信じるはずである。

 すると、造り主の側だった人間が逆に、らせんのように渦巻く自己不信の迷宮にとらわれてしまうのだ。「流れる血も涙も記憶も偽物かも知れない。自分がアンドロイドじゃないという確証はどこにある!?」と。

 映画「ブレードランナー」の原作となった(1)『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』もまさに、人が人である根源の証しを問いかけるSF小説だ。

 主人公、デッカードは、最終核戦争後の地球で、逃亡アンドロイドを「処理」する賞金稼ぎだ。この世界のアンドロイドも外見では 人と区別がつかず、デッカードもアンドロイドを破壊しながら、自分が人間である確信を疑う。「機械に囲まれた日常を過ごす私たちにとって、人と機械の違い が判然としなくなる未来はすぐそこにありそうに思える」と福澤さんはいう。

 (2)『縫製人間ヌイグルマー』は著者のミュージシャン、大槻ケンヂのハードロックな「オーケン節」がさくれつするSFバトル アクション小説だ。宇宙の綿状生命体に寄生されたテディベアのぬいぐるみが、超人「縫製人間ヌイグルマー」に変身して悪の巨大組織と戦う。「中身は綿なの に、愛する人を守る気持ちは人以上」(福澤さん)

 では、現実の科学はどこまで進んでいるのか。(3)『心はプログラムできるか』は、心の謎に迫る人工生命の研究成果を解説す る。例えば、人工知能の研究者は、感情を状況に応じて適切に行動するための合理的システムと定義し、暗闇の中の注意深い動作が不安げに見えるロボットなど が作られているらしい。

 記者が薦める(4)『未来のイヴ』は19世紀フランスの象徴主義の作家、リラダンの代表作。アンドロイドという造語を初めて世に広めた小説である。

 英国の青年貴族エワルドがひと目ぼれした恋人は、ビーナスに生き写しの美女だった。だが、彼女の魂は俗物そのもので、エワルド はその落差に苦悩し、自死まで決意する。彼の絶望を知った天才電気学者、エディソン(あの偉大な発明家がモデル)は、彼の恋人と寸分たがわず、理想のみを 実体化させた人造人間を創造するが……。

 人に造られたものは、かりそめの幻影にすぎないことを思い知らされる高貴な悲劇だ。

表紙画像

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

著者:フィリップ・K・ディック

出版社:早川書房   価格:¥ 777

表紙画像

縫製人間ヌイグルマー (角川文庫)

著者:大槻 ケンヂ

出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)   価格:¥ 860

表紙画像

未来のイヴ (創元ライブラリ)

著者:ヴィリエ・ド・リラダン

出版社:東京創元社   価格:¥ 1,575

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